防衛省の守屋前事務次官の逮捕劇は、前次官の妻まで逮捕されるという異例の展開になった。前次官夫人・守屋幸子容疑者は、いわゆる専業主婦。収賄で逮捕される事態に「?」を感じる。
「身分なき共犯」という規定が刑法にあるそうだ。収賄は公務員という身分があってはじめて適用される罪。前次官は問答無用の犯罪人になるわけだが、妻は公務員ではない。本来なら収賄で捕まることはない立場だが、共犯であれば身分が公務員でなくても主犯と一緒に刑法犯になるという理屈だ。
守屋夫人をかばう趣旨ではないが、ちょっと強引な印象はぬぐえない。幸子氏とともに接待の恩恵にあずかっているはずの防衛省幹部の夫人会メンバーや留学の際に何かと面倒を見てもらったとされる守屋家の子どもだって共犯という理屈になる。
共犯といっても、専業主婦。具体的な便宜供与に関する知識などあるはずもないだろう。
まあ常識的に考えて、夫人までとっ捕まえることで「守屋氏個人の暴走」という絵図を描きたいどこかしらの意向が働いていると見るのが妥当だろう。
世間の印象なんてマスコミ報道で決まる。「オネダリ妻」、「墜ちた夫婦」などというフレーズは、「守屋夫妻は悪い奴ら」という極めて矮小化された断面がコトのすべてであるかのような印象をもたらす。
ゴルフの回数、焼肉をたかった回数、海外ブランド品のお土産話などのワイドショー的ネタがぽんぽん出てくれば出てくるほど、防衛省の構造的な問題や防衛利権という闇などどこかへ消え去っていく。なんか不気味だ。
歴史は繰り返すではないが、国が重要課題をめぐってドタバタしている時にはこの手の事件が起きる。
一例として思い出すのが住専問題のさなか、「西の末野、東の佐々木」と称された末野興産と桃源社の両オーナー経営者への集中砲火だ。印象的だったのは、末野興産への国税のマルサがなかば公開型で展開されたこと。
通常、国税の査察(マルサ)は、一般の税務調査とは異なり隠密行動が大原則。国税局の査察部員がガサ入れする当日まで、その地域の税務署長さえ、ガサの事実を知らされないほどの徹底ぶりだ。
ところが、末野興産バッシングがピークだった頃、ある朝、一般紙各紙に「今日にも査察」という見出しが躍った。そして、テレビカメラが準備万端整っている所に大阪国税局の査察部が登場、衆人環視の中での査察という異例の作戦が展開された。
その昔、新聞社系の写真中心のグラフ雑誌で、国税局の査察部が特集されたことがある。本物の査察官は顔出しNGが基本のため、部内の執務風景の撮影では、広報関係職員らが査察官役に扮していたというエピソードがある。それほどまでに隠密主義の査察が、住専問題のあだ花に対して実行したパフォーマンスに公権力の得体の知れない不気味さを感じた記憶がある。
鈴木宗男議員が一斉にバッシング対象になり、外務省の佐藤優氏がラスプーチンという異名とともに悪の権化として描かれた一連の絵図もそうしたキナ臭さがプンプンしていたし、新井将敬、松岡利勝両元代議士の自殺事件にも似たような印象がある。
最近ではライブドア、村上ファンド問題があげられる。今年の夏、ホリエモンと一緒に捕まったライブドアのナンバー2・宮内亮治氏を囲む内緒の会合に参加した。公判中とあって、何かと口は重かったが、公権力が特別な意思を持って動く際の不気味さを随所に感じさせる話が聞けて興味深かった。
今回の守屋事件。主役の逮捕というヤマ場を過ぎ、一連の話題はこれから急速にしぼんでいき、マスコミ報道も急速に次なるターゲット探しにシフトし始める。
誰が損して誰が得したか、誰が消されて誰が守られるのか、結局、歴史になったときにいろんなことが見えてくるのだろう。
真実は幾重にも包まれることもあるんでしょうね。そいつを剥いていくと、魑魅魍魎が跋扈する世界への扉が開くワケですね。一度、富豪記者殿とそんな門前町を散策してみたいものです。
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