中小企業にとって変な税制は数あれど「役員給与の損金不算入」制度は、民間の実態をまるで分かっていない人間が作ったと断言できるものだ。
税制上は、役員報酬は損金にでき、役員賞与は損金にできないというのが以前の大原則だった。平成18年の税制改正でこれが大きく転換、報酬も賞与も「役員給与」として一本化され、あくまで原則は損金不算入の支出という位置付けにされた。
役員給与は原則として損金にできないという発想自体が物凄いが、まあそこは大原則。問題は、限定的に損金にできることが認められた条件の中味だ。
平成18年改正の目玉だったのが、「役員賞与も損金にできるようになりました」というもの。これは「事前確定届出給与」という内容で、読んで字のごとく、基本的に事業年度開始から3か月程度の間に所轄税務署に対して支給額や支給時期を届出ておけば、従来は損金にできなかった役員賞与も損金にできますよという規定だ。
「役員賞与も損金にできる」という字ヅラだけ見れば画期的だが、事業年度当初までに「事前」に「支給額や支給時期」までも税務署に「届出」しないとダメという構図である。
一般的な役員賞与とは、業績の結果に応じて支給が決まるものであり、事業年度初めに決められる性質のものではない。つまり、「役員賞与が損金にできる」という表現は、厳密に言えば正しくない。役員賞与をどのぐらい出せるかを期首から分かっている会社など考えにくい。
強いていえば、これまで月間給与の14か月分の年俸制で、月間給与とは別に夏と冬に1か月分づつ支給するような形態をとっているケースに使える制度という話だ。
税務専門紙を発行している立場で、いまさらこんな見解を書くことは正直心苦しい。ウチの紙面にも「役員賞与も損金に!」といった短絡的な記事が載っていた。細かな規定が整備されていくうちに「アレレ」は強くなっていった。
でも改めて思う。上記の制度が誕生した際、財務省も国税庁も「役員賞与だって損金にできるようになったのだから画期的なこと」という趣旨の自画自賛を繰り広げていた。あの主張は、いわゆる“おためごかし”的な方便だったのか、それとも本当にそう思っていたのだろうか。
仮に「役員賞与を損金にできるようにした」と本気で思っていたとしたら、民間の実情をあまりに知らない。役員賞与は、日々変動する業績の積み重ねで生まれる性質のもので、事前に決められるほど安定している会社など中小企業の世界には珍しい存在だろう。
ちなみに「事前確定届出給与」を適用した会社が、業績低迷で、決めていた支給額をほんのちょっとでも減額したら、そのすべてが損金にならないのだから、救いようがない。
「どんなことがあっても、何が起きようとも確定している支給額」なんて給与の世界にあり得るのだろうか?。思わず考え込んでしまう…。おっ、あったあった!公務員の給与だ。人事院勧告をもとに細かい額までびしっと決められているお役人の給料は確かキッチリ確定したまま変動しなかったのでは無かろうか。
役人の発想でしか出てこなかった制度が「事前確定届出給与」という存在だ。
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