2008年4月4日金曜日

中年こそハマショー


浜田省吾といえば、ジーンズにサングラスで青春とか反体制的といったイメージが強い。そんな彼もデビューから30年以上が過ぎた。50代半ばを過ぎていまだ現役バリバリで全国のアリーナツアーを完売させている。

今週、彼の近年のライブツアーを収録した3枚組のDVDが発売された。発売当日、明け方までかかって全部見た。実は私、中学2年生の頃からファン歴30年近く。自分の成長段階に応じて一人のミュージシャンの軌跡を追ってこられたことはラッキーかもしれない。

それこそ、20年以上前は、怒りや葛藤が彼の歌の代名詞で、思春期の少年にはそれなりに刺さった。でも、軽薄ナンパが時代の空気だった80年中盤以降は「ハマショーのファンです」というセリフはちょっと格好悪い感じがして、隠れファンだった時期もある。

実際に家出するほど不満はなかったし、警察に追われるほどの悪事もしなかったし、経済的にも恵まれた方だったあの時代、ハマショーの怒りや不満がちょっとうっとうしかったのも確かだ。

「MONEY」というファンが大好きな曲がある。歌詞がすごい。

“純白のメルセデス、プール付きのマンション、最高の女とベッドでドンペリニヨン。~中略~まるで悪夢のように”ときて、カネがすべてを狂わせているぜ的な趣旨のサビが続き、最終的には“いつか奴らの足元にビッグマネーをたたきつけてやる”みたいな結論づけ。激しく重いです。

思春期の私は、そんな怒ってる暇があったら、最初から足元にビッグマネーをたたきつけられる「奴ら」の側になるんだと可愛いげもなく思いこんでいたので、この曲は好きではなかった。

それ以外にも反核とか国のアイデンティティを取り上げたような曲にも定評があるハマショー。確かにロックミュージシャンに必要なメッセージ性という意味で大事な要素であり、実に深い楽曲を完成させている。ただ、自分が大人になるに連れ、その重さがおっくうになり、ある時期を境にあまり聴くこともなくなっていた。

ところがここ5,6年ぐらいの間に再び好んで聴くようになった。理由は、彼の歌の世界に「突き抜け感」がはっきりしてきたことだろう。

等身大の40代、50代の男の世界とロックのとの融合は日本の音楽シーンにとって今後の大きな流れだろう。若者が主人公の恋愛モノ、葛藤モノばかりだった歌詞の世界は、中高年の日常や想いにも広がりはじめている。

20年、30年前から活動を続けるミュージシャン達が年齢を重ねるうちに必然的にオトナの世界を題材にするようになってきたわけだが、この分野において、ハマショーは実に味わい深い世界観を見せ始めている。

これまで固定されてきたハマショーのイメージとは微妙に違う「達観した大人の歌」が増えてきたことが近年の特徴だろう。中高年男性にこそお勧めしたい。

「花火」という曲では、“すぐに帰るつもりでクルマを車庫から出し、アクセル踏み込む”男が主人公だ。まあ無責任といえば無責任だが、この男、置いていった家族を思いながら、“すぐに帰るつもりで家を出て、もう5度目の夏の夜空に花火~”とうなる。せつない。でも妙に心根に響く。
すべてを置いて逃げ出しくなる大人の心情を、実行してしまった架空の男と重ねているわけだ。

ほかにも「陽はまた昇る」という曲では、それなりの年齢の男が主人公。この男は“今日まで何度も厄介なことに見舞われてきた”らしいが、“今もこうして暮らしてる。これからも生きていけるさ”といきなりの達観を見せる。そして、“オレがここにいようといまいと”明日の朝も陽はまた昇ると歌い続ける。

そのうえで誰かに歌いかける。要約すると、行く道はいくつもあるが、たどりつく場所はひとつだけだと。どの道を選んでも、その道を受け止めて楽しむしかない。最後には笑えるようにって感じで、妙にサバサバしたメッセージだ。すごく肩に力を入れて頑張れって感じの曲がロック系の世界には多い。生きざまで悩んだり、もがいたりする世界が美徳のようなロック系の世界で、50代半ばを過ぎたミュージシャンの達観が潔く感じる。

「君と歩いた道」と題するバラードでは、“もし15のあの夏に戻って、そこからもう一度やり直せたら、どんな人生送るだろう”といきなり年寄りっぽい「振り返り」からスタートする。アレコレと歌詞の世界は続き、結局最後は“もう一度やり直せても、この人生を選ぶだろう。君と歩いた道をもう一度歩くだろう”と締めくくる。

これまた達観だ。世のなかの中高年を見回してみると、後悔の固まりのような人が多い。それが現実だろう。だからこそ、悔いよりも現状肯定ができたら実に素晴らしいと思う。

まあファン歴の長さのせいで、つい熱く語ってしまいそうだからこの辺でヤメにする。

ちなみに、新作DVDのライブ映像の某シーン。NHKホールの最前線に陣取る私が写っちゃってました。大きな声で言えない方法で入手したチケットだったが、いい思い出が出来てしまった。

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