暖かくなってきた。冷やし中華のノボリを立て始めた店もある。これからの季節、まっさきに日陰の存在になるのが「鍋」だろう。熱燗に鍋という組み合わせは、なんだかんだ言っても寒い季節の定番だ。
毎年、この季節になると、アマノジャクの私ががぜん、気になるのが「おでん」だ。おでんも冬の定番だが、冷たい生ビールとおでんの組み合わせも捨てがたい。
というより、冬場は混んでいてなかなか入れないおでん屋さんに比較的入りやすくなることが私にとって大きなポイント。
突然、ふらっとその日の気分で店を選びたい性分なので、いつも飛び込みで店を覗く。
真冬のおでん屋さんは、このスタイルだと途端に敷居が高い。入れない。すごすごあきらめるか、変な時間帯にしか行けない。
だいたい、おでん屋さんに行くのに事前に予約するという行為が苦手だ。こんな性格だから、ハヤリの店には行けない。
前振りが長くなった。銀座の美味しいおでん屋さんに2日続けていった。最初は「おぐ羅」、次の日は「力」。
おぐ羅を訪ねたのは6時半頃。ふらっと覗いたらなんとか入れそう。私が席にありつけた直後に結局、満席になったが、飛び込みで入れたのだから季節の変化に感謝だ。
かつおの美味しい時期だけに迷わずに定番のタタキを頼む。ポン酢と薬味たっぷりのこの店のたたきは、カツオを食べ終わった後におでん鍋からアツアツの豆腐を入れてもらうことが真の目的。豆腐投入を見越して薬味を残し気味にしておくことがコツだ。
おぐ羅の特徴は、「おでん屋なのに高い」ということ。知らないと戸惑うかも知れないが、知っていれば驚かない。値の張る一品料理をカウンター越しに勧められるが、断るのもヤボとばかりに調子に乗っていると高く付く。でも納得の味が多いから私的には大好き。
この日、タケノコの煮物、カニミソのカニ身あえ、それ以外にも旬の酒肴を頼んだ。みんな美味しい。そして何より、この店は燗酒が絶品。白鹿だか白鷹だったかいつも忘れてしまうが、その1種類のみ。ただ、錫だかのやかんで都度都度お燗をつけるこの味が最高で必ず飲みすぎる。
おでんはアジを使ったつみれや、ゴボウのくせにやたらと柔らかく、中に鴨肉が詰めてあるおでんがトクにおすすめ。まあなんでもうまい。
翌日の「力」。こちらも冬場は風情のあるカウンター席はとっとと埋まってしまう。この店、とってつけたような今風の装飾で無理矢理日本情緒っぽさを演出している店とは一線を画し、造作も本格的、正しい日本料理屋風のしつらえ。いい感じで鄙びていて情緒タップリ。
肝心の味の方は、こちらもさすがに銀座のおでん屋。まっとうな一品料理が数多く揃う。特製のアジのタタキは、酢じめしたうえで軽く炙られたアジをおろしポン酢タップリで味わう。毎度頼んでしまうほどクセになる味だ。
おでんは、まさに上質なお吸い物系の優しい味。関東おでんが好きな人には物足りないだろうが、いくらでも食べられそうな味わい。ここには、古典的なおでんだねのほか、トマトなんかもあって楽しい。
一本から頼める牛すじの土手煮なんかをつまみに焼酎をグビ呑みして、締めに優しい味わいのおでん。実に穏やかな時間が過ぎていく。
さて、この2店。両者とも最後のお楽しみにとして「汁かけご飯」がある。双方ともおでん鍋の絶品スープが主役になるわけだが、これに関しては「おぐ羅」に軍配が上がる。
おぐ羅のそれは、茶めしに刻みネギを載せておでん汁をかける。力は、白ご飯におでん汁だが、風味づけの刻み海苔が多くて、スープの味わいを弱めてしまう。
おぐ羅の汁茶めし、どんな上等な食べ物にも勝る旨さだ。最高のB級グルメ、いやA級だろう。
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