プロというとチョットおこがましいが、一応、新聞製作の現場で働いている以上、言葉に関してはそこそこうるさいほうだ。
うるさいというか、人一倍神経を使わねばならないといったほうが適切だ。新聞業界はある意味、言い換えることが使命みたいな世界だ。
共稼ぎ、後進国、床屋に町医者、婦人警官に登校拒否児などなど。日常普通に使っている言葉だが、すべて原則として言い換えの対象だ。
共働き、発展途上国、理髪店、開業医、女性警官、不登校の生徒。。。ざっとこんな感じに言い換えることになる。
「キチガイ」なんかはもってのほか。どんなに会話で使っていようとも活字にするのは厳禁。「カーキチ」なんかもトバッチリ?で使用しないことが原則。
「精神障害」なら良くて「キチガイ」がダメというのも正直ピンとこないが、定められたルールって、いつしか絶対視されていく。
父兄とか老婆も言い換えの対象。それぞれ、父母、老女にしないとダメというのがジェンダー問題に配慮する新聞業界のルールだ。
当然、女中さんや産婆さんもダメ。お手伝いさんや助産師さんが正解。なんかニュアンスが変わってしまう気もする。
孤児院なんていうのもダメ。児童養護施設などに修正する必要がある。こっちはニュアンスがだいぶ変わってしまう。
「あしたのジョー」とか「タイガーマスク」に出てくるのはあくまで孤児院だろう。児童養護施設という表記だとイメージが伝わらない気がする。
無意味に思えるものも多いが、不快に思う人が存在する可能性があれば、すべて言い換えの対象にするのが基本だ。
闇雲な言葉狩りと過剰なまでのメディアの自主規制が、日本語のニュアンスや文化的背景をおかしくしている部分は確かにある。
配慮が必要な意味で言葉を言い換えるのはある程度仕方ないが、コトの本質を隠すような言葉の使い分けには気持ち悪いものも多い。
言い換えというより言い逃れと表現したほうが適切なのが、援助交際とか不倫とかソッチ方面の言葉だ。
「若い時にエンコーしちゃったことがあります」って言われるのと「若い頃、売春してました」っていわれるのではずいぶんイメージが違う。
「ワタシ、目一杯恋してます!」より「いまどっぷりと不倫してます」のほうが凄く重い。言い換え、言い逃れの妙だろう。
自衛隊の海外派遣は、「海外派兵」だし、公営ギャンブルだって「公認賭博」だ。
コトの本質を隠す言い換えは、人権などへの配慮から生まれた言い換えよりもうさん臭い感じがする。
仕事柄、個人的に昔から気に入らないのが「公的資金」という言葉だ。思い起こせば、いにしえの住専問題当時に定着した言葉だと思う。
破綻した住宅金融専門会社の後始末に税金を使う際に出てきた。「公的資金で補てんする」などといわれると「皆さんの税金で尻ぬぐいします」という意味合いが妙に薄れる。
最近になって産業再生法の改正なんかを契機に大企業救済のために「公的資金投入」がさかんに話題になっている。
「公的資金」の定義が単純に税金というわけではないなどと役人には指摘されそうだが、四の五の言っても元を正せば国や自治体の収入は税金だ。逆に言えば「公的資金は税金ではない」とは言い切れない。
「公的資金の注入」イコール「税金使って助ける」という意味だ。そういう観点で今後の経済ニュースを予想すると、今後しばらく間違いなく“税金の大盤振舞い”を報じる話題が続出する。
ちなみに、脱税のことを「公的資金拠出拒否」などとは言い換えない。納める側には、そんな言い逃れを許してくれない以上、税金を使う側も言語感覚はシビアであって欲しい。
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