1億円以上の報酬を得ている上場企業役員の氏名や金額が個人ごとに公表されることになった。金融庁が音頭をとった企業内容開示策の改正で今年3月決算から適用されれる。
導入をめぐってはプライバシー問題などを理由に反発した経済界に対して亀井金融相が噛みつくなどスッタモンダしていたが、結局金融庁サイドが押し切った格好だ。
日本取締役協会という組織が数年前に調査したデータでは日本の大企業経営者の報酬水準は、欧米に比べて低く抑えられていることが浮き彫りになった。
同調査によると、アメリカの売上規模1兆円超の企業経営者の場合、その報酬は約11億1千万円。欧州では約2億7千万円が平均。
これに対し、わが国のトップ企業の経営者の平均報酬は約8千万円。欧米が絶対とはいわないが、大手企業の経済活動の規模を考えれば、決して高い水準ではない。
高い安いの基準をどこに置くかで見方は変わるが、社会的要請や公共的使命なども押しつけられるわが国トップ企業の経営者の年俸がベラボーだとはいえないだろう。
わが国の場合、報酬を決定する基盤は、いわゆる日本型サラリーマンの姿がベースだ。新卒で仲間入りして終身雇用や年功序列を前提とした組織生活を送り、勝ち抜きレースに残ったものがトップの地位に座る。
大雑把に表現すれば予定調和の中で緩やかな上昇カーブを描く感じだ。あくまで従業員の延長線上に経営者があるという考え方。
これ以外に、役員賞与や長期インセンティブ報酬などに関する税務上の扱いも影響している。これらは一定の要件を満たせば、企業の損金にできるが、それなりに経費化ヘのハードルは高く、相対的に経営者報酬を低く抑えることと無関係ではない。
極端にいえば、現状の税制が頑張って稼ぐことを悪とみなしているような仕組みであるため、欧米型の超高額報酬が出にくいわけだ。
今回の「1億円」基準も「ねたみ、そねみ」ばかりが話題になりそうだ。対象になる経営者達には堂々と胸をはって高額報酬を自慢して欲しいものだが、日本人的謙譲の美徳のせいで、なぜだか申し訳なさそうな顔でメディアを避ける姿が想像できる。
また、1億円基準で氏名が公表されるのを嫌って、フリンジベネフィットに重きを置く動きが強まることも予想される。
フリンジベネフィットは、いわば「報酬以外の役得部分」。陰の給料とでも表現した方が分かりやすいかも知れないが、社用車、社宅、交際費などなど、会社マネーを使った経営者独自の「経済的利益」の部分だ。
たとえば年俸3千万円のサラリーマンと年俸1200万円のオーナー経営者を比較すると、表面上は前者がリッチだといえるが、その実態は異なる。
リッチサラリーマンは、住宅ローンにあえぎ、クルマの月賦にも追われ、奥さんは専業主婦なら収入ゼロ。
オーナー経営者は、会社コストで住宅や自動車が用意され、奥さんは専務として夫を支えながら然るべき役員報酬を得ている。
こうやって比べると実際の可処分所得は、サラリーマンの方が断然少ない。
日本の経営者報酬が海外より安いと言っても、説明したようなフリンジベネフィット次第で、実際の待遇は大きく変わるわけだ。
今回、1億円基準を設けたにしても、そこに顔を出す経営者より基準以下の経営者のほうが遙かにリッチというケースはいくらでもあるわけだ。
結局、鳴り物入りで導入される1億円基準はその程度のものでしかない。オーナー経営者の財務的実態がピンとこない役人の発想だろう。単なるノゾキ趣味。
喜ぶのは金持ちを探しているドロボーとか誘拐犯ぐらいだったりして・・。
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