わが社のある池袋は魔界みたいな場所だから、あまり好きではない。一応、東京の西側エリアでは大都市としてエバっているが、昭和の中頃までは、お隣の「大塚」のほうが頑張っていたらしい。
大塚は不思議な街だ。天下の山手線の駅がある割には、どこか知名度が低く、掴み所がない。山の手なのか下町なのか、住宅街なのか繁華街なのか、どこか曖昧な雰囲気。
その昔、池袋がまだ今ほどのターミナルタウンになる前の話。大塚にはデパートがあり、賑やかな三業地もあって、相当に活気があったらしい。
昭和40年代、「おおつか~、かどま~ん」という結婚式場のテレビコマーシャルがあった。駅前のビルの屋上に金閣寺が乗っかっている趣味の悪い建物があって、あの頃の東京人は皆、大塚と言えばカドマンを連想した。
いまでは、チンチン電車(都電)がシュールに走り回り、中途半端なラブホテルのネオンが光っている。なんか寂しげな空気が漂う。
流行とかファッションとか、そんな次元とは無縁な街だ。ただ、昔の三業地の伝統が影響してか、ぶらぶら歩いてみると、渋い風情の飲食店も結構見つかる。
“チェーン展開型セントラルキッチン系団体さん歓迎路線”の店しか無くなってしまった池袋とは違って、オッサンが覗きたくなる店がゴロゴロ見つかる。
東京の名門?居酒屋として知られる「江戸一」、「きたやま」、「串駒」あたりは、居酒屋ジャンキーには聖地のように扱われている。
行ったことはないのだが、「鮨勝」、「高勢」あたりの江戸前寿司の人気店もある。いろいろ探せばいろいろな穴場が見つかりそうだ。
昔の三業地つながりで言えば、神楽坂あたりも出自?は似たようなものなのだろう。神楽坂はカッチョ良く演出されて手垢がついちゃった感じだが、大塚はボケーッと時代が過ぎたまま放ったらかされている感じだ。
池袋から一駅離れるだけで、随分としっぽりとした風情が漂う。考えてみると、こういう風情が本来の東京の空気なんだと思う。
まあ、なんだかんだアゲてみたものの、率直に言えばビミョーな街ではある。そう言っちゃうと元も子もない・・・。
さて、最近、続けて大塚で飲む機会があったので、この街の独特な雰囲気を改めて実感した。会社から近いし、値段も手頃だし、銀座ばかり行ってないで探索の機会を増やそうかと思った。
冬はアンコウとフグ、夏はウナギを中心に扱う老舗の料理屋が「三浦屋」。まともなあんこう鍋を気軽に食べられる近隣エリアでは貴重な店。
フグの一品料理もアレコレあるから、アンコウ一辺倒で飽きてしまうこともない。使い勝手がいい店だと思う。
アンコウ鍋のスープは赤味噌、白味噌、醤油味から選ぶことが出来る。アンキモも鍋で熱々になったところをワシワシ食べられる。まさに冬の味覚だ。
ヒレ酒をさかんに飲んで、フグ旅理をツマミに、他にもイクラの醤油漬けとかタラの芽の天ぷらとか一品料理をもらって、アンコウを堪能する。
中央区や港区あたりだったらお勘定が心配になりそうだが、なんてったって豊島区である。中央区あたりの小料理屋程度の値段で充分まかなえる。
続いて紹介するのは焼鳥の名店「蒼天」。その存在は随分前から耳にしていたが、なかなか機会が無く、某日初めてふらっと訪ねてみた。
いやはや、聞きしにまさる名店だろう。単純明快にウマいし、鶏のあらゆる珍しい部位が揃っているし、店も小綺麗で居心地がよいし、サービスもキビキビしっかりしている。もっと早く知っていれば良かった店。
白レバ刺しとか、ナマモノ方面に期待を寄せて行ったのだが、今は扱わなくなってしまったと聞き、激しく落胆した。
白レバのパテをメニューに見つけて気を取り直す。おまけにお店の人がメニューには無い「キンカンの燻製」を出してくれて俄然ニコニコになった。
卵になる前の黄身の部分だ。コレステローラーとして大歓迎である。スモークの風味が加わり、大根おろしも加勢して実に素晴らしい酒肴だ。
アルコールもあれやこれや揃っている。芋焼酎は、あらかじめ割水されたマイルドな逸品が用意され、お湯わりを注文すれば炭火で熱する「ちょか」で出てくる。
串焼がとにかくバッチグーだった。この時期にしか入らないらしい野生のキジを勧められて部位ごとに3本もらった。
締まった肉質がタダモノではない。ブヨブヨしてるばかりの鶏皮が嫌いな私が、その引き締まった皮の部分に圧倒されてしゃぶりつくした。
キジ以外にも、頼むものすべてウマくて大満足。最近は新しい店を開拓することをサボっていたので、改めてアンテナを張り巡らせねばと反省する機会になった。
当然、一度行ったぐらいでは豊富なメニューの一部しか味わえていない。近いうちに二度三度と出かけて羽が生えるまで鶏をむしゃぶりつくそうと思う。
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