先日、時間があったので、ふらっと映画を見ることにした。選んだのは「山本五十六」。役所広司が主演。なかなか見応えのある作品だった。
昨年暮れに完結したNHKのドラマ「坂の上の雲」もいずれ全編DVD化されたら買ってしまうのだろう。
戦争映画が好きなつもりはないのだが、思い起こせば子どもの頃から随分その手の映画を見てきた。やはりスマートに描かれる海軍モノに惹かれる。
最近でも「ローレライ」とか「真夏のオリオン」あたりのビミョーな作品もついつい見てしまった。
今回の「山本五十六」はそうしたビミョーな路線ではなく、まっとうに仕上げられた王道的な作品だった。
役所広司が細くて格好良すぎるのが最後までしっくりこなかったが、脇を固める俳優陣にも軽々しい感じがなく、退屈せずに楽しめた。
実は、山本五十六に興味を持ったのは、戦争とはまったく関係ない本を読んだことがきっかけ。
その本は、戦術論でも偉人伝でもなく、明治以降の著名人の恋文を集めた新書だったのだが、そこに紹介されていた山本五十六の純情ぶりが印象的だった。
ヒトカドの人物なら、家族以外に愛する女性を囲っていたのが当時の常識だが、その女性に送った手紙がいじらしい。
~~~実はあなたの力になってそれで孤独のあなたをなぐさめてあげたいと思って居った自分が かへってあなたの懐に飛びこみたい気持なのですが 自分も一個の男子として、そんな弱い姿を見られるのは恥ずかしくもあり 又あなたの信頼にそむく次第でもあると思って ただ寂しさを感じるのです こんな自分の気持は ただあなたにだけ今こうしてはじめて書くのですが どうぞ誰にも話をなさらないでおいて下さいね~~~
五十六さんはこのとき51歳。お相手の芸妓は30歳そこそこ。当時の51歳といえば、オジイチャンと呼ばれて隠居顔で過ごす人もいたはずだが、さすがの傑物ぶり。「懐に飛びこみたい」とサラッと言ってのける純粋な感覚は凄いことだと思う。
その後、五十六さんは戦死するまで10年近くこの女性との関係を続ける。昭和18年4月、戦死直前に送った手紙に添えられていた歌がまたニクい。
~おほらかに吾し思はばかくばかり妹が夢のみ毎夜に見むや~
いい加減な気持ちで思っているのであれば、こんなにも夜ごとあなたの夢ばかり見るだろうか、という内容だとか。
60歳を目前に、こんなロマンチックな歌を詠む姿勢を素直に尊敬したくなる。カッコイイと思う。
たかだか40代でアチコチが痛いの痒いのと言っている自分のだらしなさを反省しないとならない。
色恋がどうのこうのではない。年齢に関係なく、エネルギッシュで情熱的な姿勢を保ち続けることの大切さを五十六さんの恋文や歌は教えてくれる。
ちなみに映画の中の山本五十六は、戦争嫌いなのに戦争を仕掛ける立場になってしまった境遇と卓越したリーダー像を中心に描かれている。
もちろん、恋人が存在したことなどカケラも想像させないような描かれ方だが、「軍神」と呼ばれるまでになった彼の現実の日常を支えていたのは「懐に飛びこみたい」ほどの情熱的な恋だったのかもしれない。
0 件のコメント:
コメントを投稿