欲望の最たるものは食欲だろう。ウマいものを口にすると顔がほころぶ。ウマいものと簡単に書いたが「ウマいものイコール不健康」だ。ここが残念である。
かといって毎日毎日美食三昧するわけではない。時々なら健康を気にせず不健康的な悪魔の味わいを堪能すべきだろう。
ビーフンにカラスミをドバっと合わせた一品である。銀座の隠れ家レストラン「そうな」の人気メニューだ。
見た目で楽しんでからぐちゃぐちゃにかき混ぜて味わう。ニンマリする味だ。この日、私は食事の前半に突き出し感覚で注文して、あれこれ食べた最後にもこれをお代わりした。
この店、雑居ビルの地下でカウンターのみ。まさに知る人ぞ知る構えだ。コロナで客足は減り、さすがに以前より入りやすくなった。
まさに今が穴場だろう。空いているから多少のワガママも言いやすいしマイペースでウマいものを楽しめる。
和洋中なんでもあって、それぞれが高水準の味だから有難い。
酢豚にメンチカツにウニとトリュフのグラタンである。どれも抜群。
ウニとトリュフのグラタンはトロりとした卵黄も“エロ濃厚”な味わいを引き立てる。不健康バンザイと叫びたくなる。
親子丼の上だけバージョンである。どの料理もタマゴの使い方が上手だから、これも絶妙な火加減である。こういうツマミで酒を飲むのは男子の本懐みたいなものである。
カラスミ、ウニ、タマゴなどは中高年にとっての“要警戒食品”である。でもウマいんだからしょうがない。いまや背徳感まで味覚を高めているような気がする。
最後にカレーを味わうのも悪くない。こういうお店がわざわざ用意するカレーがマズいはずがない。炭水化物という悪魔だって私を幸せにしてくれる。敵視してはいけない。
好きなモノを好きなだけ食べて満腹になれば、近隣にいっぱいある銀座のクラブに出かける意欲は失せていく。
軽く寿司をつまんだぐらいだと、つい夜の部活に励みたくなるが、満腹だと私は家に帰りたくなる習性がある。財布にとっては良いことでもある。
別な日、築地にある宮川本廛に出かけた。どこもそうだが、こちらもコロナ禍のせいで以前より入りやすい。
ウナギ屋さんに行くと「肝焼き、まだある?」と尋ねるの大人のタシナミだ。さほど混雑していない今の時期は肝焼きも品切れになっていないことが多い。
きっとこれも不健康食品なんだろう。でも、冷酒をカピカピ飲みながら、山椒をふった肝焼きの苦みを味わうのは至福の時間だ。寿命がちょっとぐらい縮んでもいいかとさえ思う。
そして、白焼き、鰻重へと続いていくウィニングロード?である。ちゃんとした店がちゃんと出してくれるウナギは中高年が享受すべきニッポンのウマいものの筆頭格である。
生まれ変わったらさっさとオジサンになりたい、いや、最初からオジサンに生まれ変わりたいと思えるほど、中年の食欲を完璧に満たしてくれるのがウナギだと思う。
ウマいものを食べ続けて、頃合いの良いタイミングで苦しまずにポックリ逝く。どんな功徳を重ねればそんな手じまいが可能になるのだろうか。
そんな最期を保証してくれる権利がもし売っていたら、一族郎党の全財産を売ってでも手に入れたいものである。
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