2022年7月6日水曜日

新橋の奥深さ 「炉ばたや」


喫煙者にとっては肩身が狭い世界になったものである。ウン十年前に私がタバコに手を出した当時は成人男性の喫煙率が80%近かった記憶がある。8割といえば変人や病人を除けばほぼ100%みたいな話である。

 

駅のホーム、タクシーの中、飛行機の機内、エラい人の前だってタバコを吸うことは普通のことだった。違う世界の話のようである。

 

若者には喫煙者が結構いるようだが、今の時代にタバコを吸い出す人は凄いと思う。私だったらこんな不便な状況だったらまず手を出さない。吸える場所を探すのが面倒で仕方がない。

 

まあそんな愚痴を書いても始まらないのだが、気軽な居酒屋ですら禁煙が当たり前の風潮はツラい。夜の街をふらつきながら「喫煙OK」と書いてあるお店を探すのは一苦労である。

 

蛇の道は蛇でタバコが吸える飲み屋さんはいくつも知っているが、開拓精神もあって新たにタバコフレンドリーの店を見つけると吸い込まれるように入ってみる。

 

しかし、たいていハズれる。10回に8回はダメである。やはり数少ない知っている店に行くべきだったと後悔する。

 

某日、銀座の外れの小料理屋を訪ねたらあろうことか満席で入れず、新橋まで歩いてタバコが吸える串焼き屋を目指す。暑い中たどり着いたらなんと閉店していた。

 

仕方なく他の店をいくつか覗くがどこもなぜか混雑。やけになって禁煙の店に入ろうかと思ったのだが、ふと目に入った風情のある店の入口にタバコOKとあったので飛び込みで入店。

 

「炉ばたや」という昔からあるお店のようだ。文字通り炉端焼きがウリみたいだ。賑わっていたがカウンターの端っこが空いていたのでとりあえず生ビールで喉を潤す。

 


 

突き出しで出てきたのは殻付きウニである。なかなか気が利いている。見た目だけでなく味も悪くない。こりゃあ期待できそうだと安堵する。

 

接客も丁寧だし、殻付きウニのおかわりにも快く応じてくれたし、機嫌良く酒を楽しむ時間に没頭する。久しぶりにタバコも吸えるマトモな飲み屋さん発見である。

 


 

枝豆も熱々で出てきたし、アンキモ甘辛煮みたいなニクい一品もある。客層も大人中心で居心地も悪くない。ありそうで無い店だと感じた。

 

シマエビの刺身とマグロの刺身でゆるゆると飲む。隣の客が食べていたアジの干物もうまそうだし、エイヒレもうまそうだ。最近は人が頼んだモノはみんな美味しそうに見える。年々意地汚くなってきたのだろうか。

 



 アジの干物が食べたかったが、干物は尿酸値が高い人は敬遠すべき筆頭の料理である。我慢して小ぶりのノドグロを塩焼きで注文する。

 

しっかりした焼き魚を食べる機会が意外に無いので無心にほじくって食べる。さすが炉端焼きの店である。ちゃんと美味しい。すっかり幸福な気分で夜を過ごす。

 


 

不思議なものでタバコが吸える飲み屋さんに入るとそれだけで満足してしまい、1時間で2本ぐらいしか火をつけない。吸っている時間としてはほんの10分に達するかどうかである。でもそのわずかな安息タイムがつくづく大事なのが喫煙者の習性だ。

 

ホロ酔いの時間は過ぎていき、この後はラーメン屋にでも寄ろうかという悪魔のささやきが聞こえてきた。誘惑に負けそうになったのだが、この店のメニューにあったトロタク巻きが私を悪魔から救ってくれた。

 

標準のトロタク巻きの他に特上トロタク巻きもあった。違いは刺身かすき身の違いらしい。当然特上を注文する。

 


 

クドすぎないトロが使われていたのでシメにちょうどいい感じだった。全部食べてしまった。でもチャーシュー大盛りラーメンよりは遙かにマシだろう。

 

大衆酒場よりは値が張るが、逆に大衆酒場よりも落ち着いて肴と酒に向き合える良い店だった。新橋の雑踏からちょっと離れた立地も穴場感があって大箱過ぎず狭すぎず、いろんな面でちょうどいいお店だった。




結局、機嫌良く酔えたので、その後ブラブラ歩いて銀座パトロールに出動することになってしまった。


タバコ難民のおかげでこういう思いがけず居心地の良い店に出会えることもある。たいていは失敗するのだが、当たりを見つけた時の喜びは大きい。禁煙したらこういう楽しさは決して味わえない。そんな無理矢理かつ強引な結論でまとめることにする。

 


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