気に入った店に行くとついつい決まった料理ばかり注文する。メニューにはいろいろ載っているのに定番モノを頼んで満足してしまう。
私の友人でラーメンばかり食べている男がいるのだが、彼の場合、積極的に変わり種メニューにチャレンジしている。間違いなくマズそうなものでも注文する変態ぶり、いや、高潔な意気込みに感心する。
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つい決まったモノばかりを注文する私はきっと臆病なのだろう。失敗を恐れて無難な道を選ぶ。大袈裟だが人生の縮図みたいだ。もっと冒険しないといけない。
洋食屋さんに行けばクリームコロッケやエビフライ、オムライス、ハヤシライス、タンシチューといった安全な選択をしがちだ。
ポークソテーやホタテフライなども美味しいはずだが、いつも似通ったモノばかり選んでしまう。何度もポークジンジャーを頼もうとしたのだが「生姜焼きか・・・」という退屈な固定観念が邪魔をする。
先日、茅場町近くの洋食の名店「新川・津々井」で意を決して普段は頼まないような一品にチャレンジしてみた。ここはオムライスが二種類あってどちらも絶品。だからご飯モノといえばそればかり頼みたくなる。
そんな固定観念を振り払うように注文してみたのが「ドライカレー」である。これが正解だった。素直に美味しかった。何となく懐かしさも感じた。
ドライカレーというとキーマカレーのような汁っぽくないカレー料理を指すこともあるようだが、昭和人の私にとってはカレー風味の炒めご飯こそがドライカレーである。
思えばウン十年前はドライカレーはもっとポピュラーだった気がする。最近は目立った活躍?を見聞きすることはない。誰もが知っている存在だが、熱狂的なファンは見当たらない地味な食べ物である。
カレーライスはもはや日本の家庭料理だが、今のように独自の進化を遂げる中で派生的に誕生したのがカレー味の炒めメシ、すなわちドライカレーだ。いわば日本料理と呼んでも間違いではない。
明治以降の西洋化にともなって開花した“ニッポンの洋食”というジャンルを象徴する食べ物の一つだろう。「老舗洋食店で提供されるドライカレー」。こういう背景があると単純な私はすぐに嬉しくなる。
正直、なんてことない味である。それを言っちゃあおしまいみたいな感想だが、それこそがドライカレーの正しい味だと思う。良くも悪くも中途半端。でもその曖昧な感じが逆にウリだ。中途半端の完成形とでも言うべきか。
カレーの気分ではなく白メシの気分でもない。ひと仕事加えられたコメ料理が食べたい時にちょうど良い。この店のドライカレーもカレー風味が強すぎない点が秀逸だった。
カレー味ではなくカレー風味であることが大事。カレーライスが食べたいわけではないから、そこは案外重要なポイントだ。
炒めたコメと時折感じるタマネギの甘みがほんのり漂うカレーの香りに包まれている。なんてことない味だと表現したが、なかなか得がたい美味しさだと思う。
銀座の老舗洋食店「煉瓦亭」でもオムライスかチキンライス、ハヤシライスのどれかを注文するのが常だったのだが、ある時、浮気心で「ハムライス」にトライして感激したことがある。これまた「なんてことない味」なのだが時折無性に食べたくなる。
その反面、加齢のせいで好奇心が弱まった裏返しなのかもという思いもある。私はたかだか50代である。意識して自分の好奇心を煽らないとどんどん老けそうだから、やはり永井荷風大先生の路線を選ぶのはちょっと早い。
たかだかドライカレーを注文してみただけでそんなことを考えるわけだから私も相当な暇人である。でもドライカレーひとつで自分の習性に気付かされたのも事実だ。
たかがドライカレーされどドライカレー。
うーん、実に平和である。
ブログをご紹介いただきありがとうございます。
返信削除もともと私はチャレンジャーなんでしょうね。
転職回数も同じ世代にしては多いし。
しかしクルマとカミさんだけは変えませんなぁ