2023年5月10日水曜日

メンチカツに光を


コロッケかカツか。揚げ物の世界においてこの違いは大きい。カツのほうが格上のような響きがある。コロッケを立ち食いしたと聞いても違和感はないが、カツを立ち食いしたとなるとピンとこない。

 

メンチカツをメンチコロッケという名で売っている店がある。よりカジュアル感を強めようという狙いだろう。気持ちは分かるがメンチカツを愛する私にとっては邪道な呼び方に聞こえる。

 

普通のコロッケのことをポテトカツや芋カツとは呼ばない。そんな反則をしてもコロッケはコロッケである。あくまでメンチはカツであって欲しい。コロッケとは格が違う。

 


 

とかく安い挽肉を使った料理は怪しい目で見られがちだ。腐りかけの売れ残り肉を混ぜ混ぜしただけじゃないのか、という疑念が生じる。私もそう思う。きっと実際にそんなパターンは多いだろう。

 

安いハンバーグ、安いシュウマイ、安いメンチカツ。どれも危険な香りがする。実際にそんなのを食べると胃に不快感があるし口の中も臭くなるから困ったものだ。

 

お総菜コーナーで仮に100円と300円のメンチカツがあったとする。買うべきは後者だ。挽肉料理に安さを求めるのはちょっと恐い。

 

前ふりが長くなったが、メンチカツの立ち位置ほど不安定なものはない。安くて怪しいパターンもあれば高級洋食店の妙に高い逸品までさまざまだ。

 

上の画像のメンチカツは築地の人気とんかつ店「はせ川」の一品。こういうちゃんとした店だと安心してウマいメンチカツにありつける。大衆居酒屋でつい注文しちゃうメンチカツとは次元が違う。

 

一定水準以上の店のメンチカツはニッポン洋食界の英雄的存在になり得る美味しさだ。にもかかわらず怪しい大衆酒場あたりのシャバダバなメンチカツに足を引っ張られて世間一般でメンチカツが美食談義?の場に引っ張り出されることは少ない。実に残念なことだと思う。

 

先日、3年ぶりぐらいに銀座の「惣菜」に出かけた。ジャンルを問わずウマいものを揃える隠れ家的な名店である。ウニのグラタンやトリュフソースで味わうゆで卵などニクい料理を堪能した。

 




他にもカラスミをブリブリ撒き散らしたビーフンなどアレコレと堪能したのだが、やはりメンチカツの美味しさに泣きたくなるほど感激した。大袈裟だ。でもウマかった。

 

箸で切った際に溢れ出る肉汁。「にくじゅう」ではなく「にくじる」とつぶやきたくなる。溢れ出るにくじるを皿に顔を近づけてすすりたくなったがさすがに断念した。

 



 冒頭の画像のような腕の良いトンカツ屋さんのメンチカツに勝るとも劣らない逸品だった。ソースと肉汁の相まった至高の液体!?が私の五感を揺さぶる。小ぶりなところもニクい。ちまちまと大事に食べるしかない切なさもM的性格な私には嬉しい。

 

こだわりがある店に限って「お味はついてますからそのままでどうぞ」などと余計なことを言うものだが、断固私はソースをかける。ソースを使わないメンチカツなど醤油を使わないマグロの寿司みたいなものだと感じる。

 



こちらは荻窪にあるトンカツの人気店「たつみ亭」のメンチカツ。その昔、知る人ぞ知るBSのテレビ番組「東京とんかつ会議」でも取り上げていたお店だ。ひょんなことで訪ねたのだが看板のトンカツよりもメンチカツのほうが気にいった。

 

ドッシリ感が印象的だった。ご飯のお供に実に最適だった。酒のツマミにちょうど良いメンチカツもあれば、ご飯と共に味わいたいメンチカツもある。メンチカツの楽しみ方は意外に全方位だと実感した。

 

乱暴な言い方をすればメンチカツはハンバーグを揚げたようなものだ。それにソースをかけて味わうわけだから年々味覚が幼稚化している私にとってはまさに悶絶する味わいである。

 

今まであまたの洋食の名店に通ってきたが、根っからの“ベシャメラー”だからついついクリームコロッケを注文しがちだ。でも頭の中ではメンチカツにするかクリームコロッケにするかで激しく悩むことは多い。

 

ここ数年はベシャメルソースの呪縛から逃れられずにいるのだが、ワンパターンになってきたからこれからはメンチカツにも光を当てていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

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