2024年6月10日月曜日

ファド酒場で酔う

 


時おり耳にする言葉に「サウダージ」がある。一般に郷愁みたいな意味合いで使われる。ポルトガルでは「サウダーデ」で主にブラジルなどで「サウダージ」と言われるそうだ。

 

「サウダージ」は今現在も含めた切なさを表すのに対し、「サウダーデ」は過ぎ去った郷愁を意味するニュアンスが強いのだという。現地のチャラそうな男から聞いた解説なので本当かどうかは分からない。

 

でも、過ぎ去った日々への郷愁、歳をとったことで二度と得られない切ない感情を表す用語だとしたら私のような年齢のロマンチスト?にこれほど合致する言葉は無い。まるで私のためにあるような言葉だ。

 

ボサノバ音楽の源流にサウダージがあるのと同様、ポルトガルの民族音楽であるファドの感情表現は基本的にサウダーデである。

 

今回のリスボンへの旅は「ファド酒場で泣いてみる」が主要テーマだった。さすがに涙こそ流さなかったが、連夜マメにファド酒場で酔いしれた。充実した時間だった。

 




 

リスボンの中でも下町の風情漂うアルファマ地区というエリアや夜の歓楽街であるバイロアルト地区にはファドを聴かせるレストランや飲み屋がたくさんあった。事前にいろいろリサーチしていたがそんな必要はないぐらいファド酒場は点在していた。

 

リスボンに着いた日、さっそくホテルのフロントマンに当たりをつけていたファドレストランの予約を頼んでみた。ところが、その日も翌日も満席だという。基礎知識のなかった私は途方に暮れたが、街に出ればいくらでも見つかるとのアドバイスを信じて夜のバイロアルト地区を徘徊してみた。

 


 

結論から言えば簡単にファド酒場は見つかった。いろんな店を外からちょこちょこ覗きながら「A SEVERA」という店に入る。ファド酒場初体験だからシケた店は避けたかったので重厚感のある店構えに惹かれた。

 

高級レストランの雰囲気で実際に食事メニューが充実していた。リスボン初日だったのでポルトガル人の主食?でもあるバカリャウを注文。タラの塩漬けを戻したこの魚料理はさまざまなアレンジでポルトガルの食卓にのぼる。この日は標準的なソテーにしてみた。

 


 

生ハムも頼んでサングリアや白ワインを片手にバクバク食べているうちにファドが始まった。マイク無しの地声と生演奏が心地良い。

 



一回のステージは20分ぐらいだろうか、その後は30分おきぐらいに小刻みに違う歌い手が出てきてファドを熱唱してくれる。歌の意味はもちろん不明だが、きっと切ないことを叫んでいるのは確かだ。


動画を載せてみようと思っていろいろ試したのだが、何故か上手くいかないので断念。ぜひYouTubeなどでファドを聴いてみて欲しい。酒を飲みながら生で鑑賞したら結構アガる。酔いも回る。ウマい歌い手に当たった際にはかなり興奮できる。

 

次の日も当然、夜になればファドである。今の時期は夜の9時ぐらいでも明るいので気分は夕方だ。たいていのファド酒場は8時ぐらいにオープンして歌は9時ぐらいから始まる。

 

この日は数あるファドレストランの中でも高級店と言われる「Casa de Linhares」を予約して乗り込む。店の造りもカッチョいいし、ミシュラン掲載店でもあったらしく料理自慢の店だった。実際にいろいろ美味しかった。

 




 この日の歌い手は全部で4人いたのだが、私が圧倒されたのが「ムーディー勝山」のニセモノみたいな細い男だ。実に見事な声量と表現力にシビれた。動画がアップ出来ないのが残念。



 女性ファディスタも魅力的だが、男性の迫力も捨てたものではない。お店の入口にはムーディーくんのCDも置いてあったからきっと彼は結構な力量の歌い手なんだろう。

 



食事や酒飲みタイムをはさんでファディスタは交代する。ムーディーくんに圧倒された私はその他の歌い手の時にはあまり気持ちが入らずダラダラと飲んでいたのだが、ある時、他のファディスタが歌っている途中でムーディーくんがのっそりと再登場してデュエット的に美声を響かせてくれた。個人的には感動のシーンだった。



 まさに「カッチョいいぞ!ムーディーくん!」である。歌い終わりには思わず「ブラボー!」と叫んでしまった。イタリアでもないのにブラボーとしか言いようがなかったから仕方がない。

 

ムーディーくんのおかげで「ファド飲み」に満足感を得たので、3日目、4日目の夜は行き当たりばったりに繁華街の中の気軽なファド酒場を攻めてみた。

 



高級仕様の店だと食事が必須か食事ナシでもショーチャージを取られるのだが、街中の気軽な店ならドリンク代だけでファド鑑賞が可能だ。気軽な店といっても歌い手は下手くそではない。しっかり聴かせてくれる、12弦のポルトガルギターも席が近いから臨場感たっぷりに聴こえてくる。

 


 

ファドといっても全部が全部悲しく切ない調べではなく楽しげな曲ももちろんある。そんな曲が始まると妙にハシャいでしまった。「ファド酒場で泣いてみる」が旅のテーマだった割にはだいぶ事情は変わったが、なかなか得がたい時間だった。

 

いずれにせよファドの旋律は演歌の渋みを愛する日本人の琴線にも触れるのは間違いない。まったく違和感なくメロディーが染み込んでくる感じだった。

 

この歳になると新鮮な感動を覚える未知の経験はなかなかない。そういう点でははるばるポルトガルまで出かけていって「生ファド」にどっぷり浸かってみたのは貴重な体験になった。

 

リスボンは坂や階段だらけだったから元気に歩けるうちに行かないと楽しめない場所かもしれない。次回はスペインとセットで行ってみようかなどと密かに計画を立てている次第である。


以上、ポルトガル旅行記でした。以下は個人的な備忘録として画像をいくつか貼ります。ちなみに最後の1枚はクリスチャーノ・ロナウドがオーナーの高級ホテルとのこと。ヤツはいませんでした。
























 

 

 

 

 

 

 

 



2 件のコメント:

  1. ワタシのサウダ−ジは宝塚月組のショ−でした。お写真からほんとに楽しかったのね!と解ります。知らない街を歩くのってワクワクドキドキの連続で疲れを知りません。又あの感覚を味わいたくなって歩く街を旅したくなりますね。

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    1. コメントありがとうございます!

      知らない街だといつまでも歩けて健康にも良いですよね!

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