2024年9月20日金曜日

ウイスキーとサウダージ


その昔、大人の男たちはウイスキーばかり飲んでいた。テレビCMもやたらとカッチョ良くウイスキーを扱ったものが多かった。子ども心に凄く美味しそうに見えたからよほど演出が巧みだったのだろう。

 

その後、カクテルやワインの台頭、焼酎ブームやサワー類の普及で徐々にウイスキーの地位は低下していった。シングルモルトのブームみたいな限定的な流行はあったものの、いま若者の飲み会で全員が「ウイスキーの水割り」を飲んでいる光景は見られなくなった。

 

その後、サントリーの響など日本製のウイスキーの美味しさが世界にバレてしまい、上等な日本のウイスキーは品薄状態である。折からのハイボールブームによって安いウイスキーが復権?する世情になった。

 

ハイボールで人気のサントリーの角やトリスなど大衆的なウイスキーはその昔は財布に余裕のない階層や若者向けの商品だった。サントリーなら初心者はホワイト、普通の人はオールド、ちょっと上級なリザーブ、エラい人はローヤルと一種の線引きというかランク付けがあったように覚えている。キリンが出していたロバートブラウンも妙に洒落たイメージだった。

 

響はもちろん、山崎や白州も無かった時代だ。いわば、カローラ、マークⅡ、クラウンみたいなしっかりしたクラス分けがウイスキーの世界にも存在していた。あれも昭和の特徴だったのだろう。

 

その一方で「舶来ウイスキー」も別格な扱われ方をしていた。酒税法だか関税の絡みで今よりもやたらと輸入モノが高価だったから一種の貴重品として思われていた。


アイラ島のシングルモルトだ何だと細かい情報が身近ではなかった時代だ。バランタイン、オールドパー、シーバスリーガル、ジョニーウォーカーなど海外モノというだけでリッチでキザなイメージを漂わせていた。

 

セブンスターよりマルボロやラーク、ハイライトよりもケントやクールがシャレオツ?だったタバコと同じだろう。昭和のニッポン人は洋モノコンプレックスが強かった証だ。海外旅行帰りのオジサンたちは必ず洋モノのウイスキーをエッチラコッチラかついでいた。

 

いま、オールドパーもバランタインも昔に比べれば大衆的な値段でそこらへんで売っている。海外旅行の土産で持ち帰る人など皆無だ。変われば変わるものである。


オールドパーは明治新政府の岩倉使節団が初めて日本に持ち帰ったウイスキーとも言われる名品で、かの田中角栄さんもこればかり愛飲したことで有名だ。

 https://fugoh-kisya.blogspot.com/2008/03/blog-post_10.html

 

私自身、オールドパーを好んだ祖父にあやかって銀座で飲む時はオールパー一択である。今ではオールパーは夜の街では安い部類に入る。祖父つながりというこじつけみたいな理由のおかげで高価なウイスキーを注文しないで済むという副次的効果?に救われている。

 

このブログでもオールドパーへの私の思い入れを何度も書いた。正直言って味は好みではない。独特な風味のせいでロックでは飲む気にならない。あくまで習慣だから飲んでいるだけだ。

 https://fugoh-kisya.blogspot.com/2017/11/blog-post.html

 

先日、夜も遅い時間にふとウイスキーが飲みたくなった。普段飲まないせいで自宅にストックがなかったからウーバーでデリバリーしてくれる店を探した。角とかトリスを飲むのはイヤだ。コンビニあたりの品揃えでは私個人のイメージに合う「上質な大人のウイスキー」がなかなか見つからない。

 



ようやく見つけたのがサントリーローヤル。ロイヤルではない。ローヤルである。さっそくデリバリーしてもらった。ローヤルを飲むのは何十年ぶりだろう。恥ずかしながら私のウイスキーに関する知識は四半世紀前の状態で止まっている。ウイスキーにそれなりに詳しい人が今日の話を読んだらきっとトンチンカンに感じるのだろう。

 

20年ぐらい前までは自宅では「響」ばかり飲んでいたが、気づけば品薄になって妙な高値で取引されるようになったので随分とご無沙汰だ。サントリーの「碧」というウイスキーも聞いたことがなかった。ましてやそれがローヤルよりも高い値付けの商品だとも知らなかった。若者向けの安モノかと思っていたほどだ。

 

だからウン十年ぶりに再会した「ローヤル」にちょっとワクワクした。昔だったらご立派なご隠居さんみたいな人が悠然と飲んでいたウイスキーである。今ではたいして見向きもされていないらしいが、私にとっては充分である。

 

夜更けの静かな時間に映画を見ながらローヤルをロックで楽しんだ。相棒はバカラのロックグラスだ。昔に感じた「ハイクラスなイメージ」って大事だ。とても美味しかった。これが聞いたことのないウイスキーだったらどんなに高級でもワクワクしなかったと思う。思い込みってつくづく味覚を左右するものだと痛感。

 



その昔、マセガキだった私は高校1年生の分際で友人と渋谷のパブに出かけて人生初のボトルキープをした。確かロバートブラウンだった。ウイスキーの味などちっともわからなかったのに「ボトルキープ」という行動自体に憧れた。可愛い思い出だ。もう45年ぐらい前になる。あれからどのぐらいウイスキーを飲んだのだろう。

 

大人になってからはウイスキーは主に女性のいる酒場で飲んでいた。私のお馬鹿な言動やゲスな男心の横にはいつもウイスキーがあった。そんなことをしみじみ思い出しながら一人夜更けに味わったローヤル。なんだかサウダージな時間だった。

 

 

 

 

 

 

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