2008年7月4日金曜日

面食いか否か

「面食い」って良く考えると凄い言葉だ。「面」は顔つきという意味合いもあるが、それを「食っちゃう」のだから迫力のある言葉だと思う。

見た目が一番、美人が一番、イヤなやつでも顔が良ければOKって感じで、なんだか薄っぺらいが、誰だってブサイクを好むわけはない。そういう意味では誰もが、いや、私も面食いだろう。

面食い指向は人間界の話であって、私がカメラを向けてしまう水中の被写体は、変な顔が中心。

魚に美人とかイケメンがいるわけでないが、“魚の王道顔”である、マグロやアジ、タイといった分かりやすい顔つきをしている連中より、「なんでお前はそんな顔に生まれたんだ!」と言いたくなるような魚が好きだ。

最初の写真は、スプレンデッド・トードフィッシュという日本にはいない魚。これはメキシコのコスメル島で撮影。カリブ海でもこのあたりの固有種らしい。

一時期、カリブ海にはまってアチコチ出かけたが、この島には、とぼけた顔のトードフィッシュを撮りたくてはるばる旅をした。

チャーターした現地の水中ガイドが見つけてくれたが、私のために、岩陰に潜むトードフィッシュを砂の上に引きずり出し、全身の撮影もできた。でもコイツはやっぱり変な顔にこそ意味がある。口の下の髭のようなものは何のためにあるのか不思議だ。

オレンジっぽい岩のような魚は「カエルアンコウ」。一般にイザリウオという名で知られていたが、昨年、名称が差別的だとして魚類学会によって変更された。

アンコウの仲間なら、自分のことをカエルと呼ばれることだって差別のように思う。

口をちょっと開いていたお陰で、なんとか魚だということが分かる。実にブサイクだが、結構つぶらなヒトミだったりする。この魚、いつもドシッと周囲に保護色のように溶け込んでおり、動きもノシノシって感じでファンが多い。

ギョロっとカメラ目線をしてくれたカエルウオ。ブサイクというより、青と白のツートンで目玉も大きく、可愛い顔と言った方がいいかも。この魚、全長4センチぐらいなので、カメラのアングルを1センチ、2センチ変えるだけで、まるで違った表情が写せるので楽しい。

物陰からそっとこちらの気配をうかがうのはシャコの仲間。この顔だけは好きになれない。仮面ライダーとかに出てくる強い悪役のような面構えが恐い。だいたい顔だかなんだかよく分からない。

かろうじて不気味な目玉があるせいで、顔が認識できるが、表情はなく、殺人鬼のようだ。こんな顔でこっちに向かって突進してきたら失神しそうだ。

恐いから仲間もろともツメだけはがして食ってやった。というのは冗談で、話は脱線して先日食べたシャコツメの大根おろし和え。画像をついでにアップしよう。爽やかな夏の風味です。

軌道修正。魚にも表情がある。水中写真を撮っていて思うのは、やはり、接近撮影の際は、相手の表情が警戒心に満ちていること。柔らかい表情を写し込むのはなかなか難しい。

シュノーケリングしながら見る魚とタンクをつけて泡をゴボゴボ出している時に見る魚とでは、かなり相手側の表情に違いが出る。

2本の白いツノのようなものが頭についている魚はギンポの仲間。愛らしくもとぼけた顔つきで私の好きな魚のひとつ。天ぷらネタの定番だが、私の場合、いつも食べながら生きているときの顔を思い出して気の毒がっている。

このギンポもカメラに驚いた表情をしている。シャッターを切った瞬間、至近距離でモロにストロボを浴びせるわけだから、彼にすれば虐待されたような気分だろう。

遠くからでは海底に漂う落ち葉のようにしか見えないのがツマグロオコゼという魚。あまり動き回らない魚の多くが、周囲に保護色で同化しているか、何かに化けてジッとしていることが多い。

この手の“息を潜めて何かのフリをしているヤツ”を見つけて、しつこく撮影するのが私の悪い趣味だ。

私に見つけられた魚連中は、気のせいか「どうしてバレちゃったんだろう」という不満そうな顔をする。なかには、自分の変装の未熟さに恥ずかしそうな顔をするヤツもいる。

このツマグロオコゼもよーく見てもらうと、画面真ん中やや下にある目とその下の口元の様子から、彼の敗北感が読み取れる。
「変装には自信があったんだが・・・」。そんなことをつぶやいているみたいな気がする。

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