2009年3月5日木曜日

寝台特急・北斗星

この年になると初めての体験にチョッと興奮する。といっても色っぽい話ではない。先日初めて体験した寝台特急の話を書いてみる。

北海道に定期的に行きたくなる。おまけに一人でふらっと行くことが多い。この条件を考えれば、今まで寝台特急に目をつけなかったことが不思議だ。

ふと思いついて、カシオペアを手配しようとしたが、運行日程が限られており、大人気路線とあって簡単に予約が取れない。

同じ路線の北斗星ならどうだろうと調べたところ、ツインデラックスという個室なら予約可能とのこと。ロイヤルという最上級1人用個室を押さえたかったが、さすがに出発4日前の手配では厳しい。

しかたなくツインの一人利用という形で割高ながら個室を押さえる。寝台車なんて生まれてから一度も利用したことのない私だ。なんか出発前から変にワクワクする。

電車好き、いわゆる「鉄ちゃん」の気分ってこういうワクワク感なんだろうか。

出発当日は職場から向かった。会社からだと上野に行くより便利なので大宮駅から乗車する。今思えば始発駅からゆったりと旅立った方が良かった気がする。

♪上野発の夜行列車~、とか歌いながら出発した方が気分は盛り上がったはずだ。効率を求めたせいで、停車時間1分程度の大宮駅で何の情緒もなくアセアセと乗り込む。

ツインデラックスの個室はご覧の通り。2段ベットの下側はソファ席になっていて、背中を倒すとベットに変身。窓に向いたテーブルと椅子もレトロな感じでいい。

レトロな感じ、この一言が北斗星を象徴的に表わす言葉だ。悪く言えば単純に古めかしい。車輌と車輌の間の扉も何カ所かは自動化されているが、大昔のやたらと重い引き戸も健在。

このツインデラックス、個室空間は広々というわけではないが、一人で過ごすには充分。軽い体操ぐらいこなせる。お籠もり感が好きな私には悪くない空間だ。

19時半に大宮出発だったので、プチ興奮状態のままディナータイム。出発3日前までに予約が必要な食堂車でのコースディナーは一人旅には向かないと思い、大宮駅で買った弁当とかアルコールをテーブルに広げる。何だか楽しい。

ビールと酎ハイを手に串カツだのチーズだの巻き寿司だの海老フライだのを頬ばる。ちっとも旨くないのだが、初体験の寝台個室ディナーなので妙にウキウキモードだ。でも思った以上に揺れるので、さっさと酔っぱらう。結構楽しい。

経験してみて気付いたのだが、寝台列車の旅って時間の流れが物凄く贅沢だ。私の乗った時間は14時間なのだが、14時間の間、何にも追われないことは貴重なことだと思う。

旅に出たって、次はどこに行こうか、どこで何を食べようか、バスの時間まであとどぐらいだっけとか、やたらと時計に追われる。

寝台列車だとそれが無い。とにかくカンヅメだ。楽な格好に着替えてのんびりし始めれば、ジタバタしようがない。ただただ揺られているだけ。

若い時ならいざ知らず、今の私には、ボケーっと揺れている時間が心地よい。もしかしたらクセになるかもしれない。

さて、有り余るほどの読書タイム。思った以上の揺れのせいで結構活字を追うのが大変。小さい文字の本だと苦戦する。結局、文字が大きめだった「ヤクザはどうして女にモテるのか」という本を熟読する。

逆立ちしてもヤクザみたいになれない自分を痛感する。

初体験の旅とあって無意識に興奮しているようで、眠いのに横になっても寝られない。座っていれば心地良い揺れも横になるとなんか違う。落ち着かない。

おまけに眠ろうとすると音が気になる。電車なんだから仕方ない。馴れていない私は苦戦する。

眠れなかったとはいえ、この時間がとても印象的で、今回の旅のハイライトだったように思う。

灯りを消して横になるとカーテンのすき間から一定のリズムで街灯の明かりが室内に漏れ入ってくる。その小さな光は動いている電車の加減で走馬燈のように室内を回る。

旅情という言葉の定義はよく分からないが、そういう言葉が的確に当てはまるシーンだった。誰でも哲学的になれる時間とでも言おうか・・・。

ひたってばかりもいられない。寝なければ!とばかりに眠気を催す安定剤を飲んでみた。全然効かない。ダメだ。

結局、iPodを取り出して、薄明かりのなか、それっぽい曲を選んでみる。

気分とマッチした曲はこんなところ。

Hungry Heart/ Bruce Springsteen
Dreams/ The Cranberries
Wild child/ Enya
Little Lies/ Fleetwood Mac
All I Wanna Do is Make Love to you/ Heart
Last Train To London/ ELO
Nothing’s Gonna Stop Us Now/Starship
Ticket To Ride/ The Beatles

非日常的時間を楽しもうと思ったので、何を言ってるのか分からない洋楽を中心に音楽鑑賞タイムは続く。

そのうち、日本の曲が恋しくなる。寝台特急気分にフィットしたのは、有名どころでは「安奈・甲斐バンド」、「帰れない二人・井上陽水」、「遠くで汽笛を聞きながら・アリス」など。

そして意外にバッチリだったのが細川たかしが津軽三味線をバックにうなる「望郷じょんから」。何回もリピートしてしまった。

なんだかんだ言いながら、実は何度も何度も繰り返し聞いたのは私が敬愛するハマショーの「Midnight Blue Train」。

正直、これが聞きたいために寝台特急に乗ったようなもの。心底心に染みた。

そうこうしているうちに真夜中だ。でも眠れない。食堂車やサロンをさまよってみる。寝静まった時間帯だけに誰もいない。

寝つけないまま時間は過ぎる。朝から雪の北海道に放り出されるわけだからちゃんと眠らないとマズい。そう考えるとますます寝つけない。

安定剤を呑んでから2時間ぐらいだが、睡眠導入剤も摂取。やっと眠れた。

恐ろしいので絶対に起きていたくなかったのが青函トンネル。海の底を数十キロも走り続ける。揺れも強めで音もうるさいらしいので、この区間を熟睡できたことは良かった。

朝6時半頃、函館手前あたりで車内放送がガンガン始まって起こされる。寝台横のカーテンを開けると雪景色。この瞬間が快感なんだと思う。

朝食は予約不要。適当なタイミングで食堂車に行ってみる。車窓からの雪景色を見ながらのんびりと過ごせる。

結構マトモな食事が出てきたので満足。飛行機で出される機内食より10倍ぐらい美味しい。シチュエーションを考えれば、これで1600円なら悪くない。

その後、部屋に戻ってのんびり車窓からの景色を楽しむ。終点は札幌だが、今回私の終着駅は登別。9時半過ぎに無事に到着する。

登別駅で降りた客は私一人。駅には人影もない。14時間をともにした電車が走り去っていくのが、妙に寂しく感じた。

ついに私も「鉄ちゃん」になったのだろうか。

2 件のコメント:

  1. うわ、やられました。
    まさにここ何ヶ月か練っていた「実現したらいいな。」というプランをものの見事に実現しましたね。
    しかも目的地まで一緒なんて・・・。

    とても羨ましい限りです。
    寝台特急の旅は日常からひととき解放される感覚でいいなと思ってました。
    ちょっと割高ですけどその贅沢なところがまたいいですよね。

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  2. コメントありがとうございます。
    寝台の旅、やはり一人旅にこそマッチする気がします。書斎は狭い方が快適という理屈と同様、限られたスペースで過ごす寝台旅行は書斎にこもる感覚だと思いました。
    カシオペアのスイートだったら一人じゃなくても楽しそう。。

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