銀座8丁目界隈といえば、お寿司屋が山ほどあるエリアだ。お隣同志がお寿司屋さんなんてことも珍しくなく、同じビルに3件も寿司屋が入っているのも見たことがある。
ぶらぶらと散策しながら気になっていた店に突撃してみた。まだオープンして2か月だという。一応、1階に店舗があるのだが、少し奥まった感じがあってまるで目立たない。
小さめでひっそりめ。この手の店はつい覗きたくなる。店の名前は「鮨 よしき」。まだ30代の若い大将が一人で切り盛りしている。
カウンター7席程度のサイズ。小さい店だが圧迫感はない。靴を脱いで上がるお座敷風カウンター。座ってしまえば妙に落ち着く。空いていたので、アグラをかいてビールをグビグビ。
近頃は肩肘突っ張らかった修行僧みたいな若者が小難しい顔をしている寿司屋が多いようだが、こちらの店はほんわかムード。気取った感じはなく、かといってドンくさい感じでもない。
店主の様子とか人柄のせいもあるのだろう。地方都市で地元の人に愛されている小料理屋みたいな雰囲気。初訪問なのに、ものの10分でくつろぐことができた。
若い大将が一人、飲み物の用意から何までこなす。正直、大丈夫かなとも思ったが、出される料理が実に誠実かつ美味しい。入店後30分ぐらいで再訪を決意した。素直に穴場だと思う。
もっとも銀座の寿司屋に求めるイメージは人それぞれ。凛とした緊張感が漂ってこそ銀座の寿司屋だと考える人には、少し路線が合わないかも。
靴を脱いだアットホームな雰囲気で若くて屈託のない大将と対峙する。こういうスタイルが好きならオススメだろう。
この日はたまたま空いていたので、混雑時にどういう流れになるかは分からない。だいたい一度訪ねたぐらいで店の善し悪しをアレコレ語っても仕方ないが、私にとっては、早いうちに2回、3回と訪ねたくなる店だった。
ツマミをアレコレもらって飲み始めた。蒸しアワビと毛ガニが少しづつ登場。それぞれペースト状になったアワビのキモ、鮮度が良い証のオレンジ色のカニミソが一緒に用意されていたので、珍味好きの私としては大満足。
ハタの昆布締めも締め具合がちょうど良い。全体に上品な味付け。素材の鮮度も良いし、素材のいじり加減も適度。
トロステーキが出てきた。一見、ありがちだが、山ワサビをしっかり用意してある。北海道出身のお寿司屋さんの多くがこだわる山ワサビは、主にイカや貝類に合う印象があったが、トロステーキにたっぷりつけて食べると脂分のくどさが中和されてバッチリ。
聞くところによると、私がたまに顔を出す銀座7丁目の「鮨 九谷」でも働いていたキャリアがあるそうだ。北海道系の店に妙に思い入れがある私にとっては、そんな偶然も楽しい。
つまみをいろいろもらってから握りに移行。昆布締めやヅケ、軽く締めたアジなどをパクつく。生魚をシャリに乗っけるだけの北海道観光飲食店系とは比べるまでもなく、良い素材に適度な仕事を施しているのが特徴だろう。
海老の酢じめはその象徴だ。土佐酢でシメた海老の握り。私には正直、酢が強すぎる印象があったが、酢ジメ好きな人にとっては独特な味わいがクセになるかも知れない。
大将によるとカニ酢をヒントにしたらしい。昔どおりの寿司で知られる神田の笹巻毛抜き寿司の海老も確か酢ジメしてあったと思うが、そんな感じかも。
私がとくに気に入ったのが、梅だか酢で漬けたナガイモの巻物。海苔の上からシソの葉を巻いてある。シソの味が強すぎないので、なんとも軽やかでサッパリする。
芳醇な香りのウニも当然のように海苔無しで出てくる。気のせいか最近は、上等なウニを食べさせてくれる店が増えたような気がするが、こちらの店も北海道出身の大将だけに間違いのないウニが楽しめた。
最後に出された吸い物がまた優しい味わい。薄味だけどアラの旨味が充分効いていて素直に美味しかった。
まだ若い大将は、力まず自然体に仕事をしている印象があった。30代の前半や中盤頃なんて、焼肉やガーリックぶりぶりの料理ばかり好んで、旨みを活かした淡い味わいなんてピンとこないのが普通だろう。その点、大将は私よりも随分若いのにキチンとした味わいに仕上げるのだから素直に感心する。
誠実にキチンと手をかけた料理を出すには、ひとりで切り盛りする環境はキツイはず。疲れちゃっていろんな部分が後退しないことを祈りたくなった。
お勘定も実に真っ当。ちょっと応援したくなる感じだ。
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