2009年11月12日木曜日

最強の交渉相手とは

交渉事に理論武装は欠かせない。“武装”などと大げさな表現をすること自体が何よりその証しだ。

ところが理論的には完璧でも、どうにもならない局面が現実の交渉事では起こりえる。

最強の交渉相手、難敵といえる存在が立ちはだかると理論などすっとばされる。

その難敵とは「無知の力」。これって交渉事において、ある意味最強だ。理屈、屁理屈お構いなし、自分の感情だけがすべての発想と言動の源。これは強い。

私自身、かつて経験した相続の渦中で、そんな経験をした。公正証書遺言だろうが、遺留分だろうが、民法だろうが、まったく関係のない世界で生きている人と話し合いを持ったが、それこそ宇宙人と会話している状態。恐るべし。

こうなると弁護士もその人間との交渉に及び腰になって逃げ出す始末。ヘタをすると理論派のほうが弱ってしまい、無知の力の前にひれ伏してしまいかねない。

無理が通れば道理引っ込む。まさにそういうこと。

最近、わが社が保有する保有資産の売却をめぐって似たような経験をした。

その資産は、いわゆる非上場株式。数十年前に何らかの成り行きで当時の取引先にわが社が出資した分だ。

保有していても意味がないので、先方の現在の経営者に引き取ってもらおうと考えたのだが、こんなシンプルな話がスムーズに進まない。

先方の経営者の方に「時価」の概念がない。「評価額」という考えもない。あくまで株式は額面がすべてと思っている。

はじめは先方の言い分が理解できなかった。そのうち、取引価格イコール額面金額と認識していることに気付いたので、先方さんのオトボケかと勘ぐってしまったほど。

でも話を聞き進めるうちに、どうやら本当にそういう感覚らしい。非上場中小企業には珍しく、その会社は同族経営ではなく、相続の際に高額で弾き出される株式評価額で苦慮した経験がない。

社員の退職時に持株を買い取る際にも、ずっと額面そのものでやりとりしてきたらしい。

社外株主の多くも物言わぬ端株株主らしく、これまで自社株をめぐる問題に遭遇したことがないようだ。

その会社は土地だけで十億円以上の資産を保有しているのだが、資産が株価に反映するという認識すらない。

「だって売れないですもん。。。」とか言っている。

「売れ」なんて誰も言っていない。「もし売ったら価値がどれぐらいか」という話なのにそんなノリだ。

お互い資産評価の専門家をたてて「時価」を弾き出したうえで、価格調整しようという単純な図式にコトが進んでいかない。

無知の強さに手こずっている。決して見下した意味で言っているのではない。本当に強敵だと思う。交渉の土俵に載ってもらえないというか、交渉の入口に立ってもらえない。

結局、ブラフのようなフレーズとかを言い出さないといけないのだろうか。ああ憂鬱だ。理屈と理屈で交渉できることなんてしょせん大したことではないのでは思えてくる。

人間って不思議なもので、こういう状況になると、自分自身が“悪い人”なんじゃないかと錯覚しそうになる。

理解できない話を難しい言葉を使って強引に説き伏せようとしている悪いオジサンみたいな感じだ。

相手側のつぶらなヒトミがそんな感じで私を見つめる。もう少し知識を持ってもらえば、こっちの言ってることが当たり前の理屈だと分かってもらえるのだが。

なぜかこっちがヒールみたいな空気。

変な話だが、やはり無知は最強だ。

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