こう見えても私にはモデル歴がある。一応事実だ。「使用前、使用後」とか「ヅラ方面」とかではない。雑誌のモデルだ。
もう四半世紀も前になるが、全国発売の雑誌に何度か出た。正直自慢ではない。恥ずかしい過去だ。
きっかけは某出版社の編集者と知り合ったこと。いつもエッチな写真集とかをタダでもらっていたのだが、ある時、気軽なアルバイトとして“モデルデビュー”を果たした。
スタジオに行ってみると普段選ばないような洋服が随分揃っていて、アレコレ試着させられた。ところが半分以上が私には小さい。当時の私は今よりはるかに細かった。ホンモノのモデルがいかに細め体型なのかを思い知らされた。
着られるものを何とか見繕って撮影した。ちょっとジャンプしたり、こっ恥ずかしいポーズをとらされた。
この日スタジオに友人を連れて行ったのだが、実は編集者の狙いは私ではなくその友人だった。
我が母校では有名な美男子3兄弟の末弟。兄二人は現役のトップモデルとして活躍していた。友人は兄とは違ってそちら方面とは無縁の男だったのだが、確かに美男子ではある。細いし・・。
何かの拍子で彼が私の友人だと知った編集者は言葉巧みに彼を引っ張り出すために、私にいろいろとエサをまく。柄にもない“モデルデビュー”も私を調子づかせる作戦だったわけだ。
その証拠に発売された雑誌では、私の友人は何カットも格好良く登場。肝心な私はどこを探しても出てこない。
いや、よくよく見ていたら私の顔写真が出ていた。なぜか小さい顔写真だけだ。おまけにファッションページではない。白黒のどうでもいい特集ページで読者コメントを語っている。
もちろん、喋った記憶はない。せっかく無理して履いた細身のパンツもシャツも映っちゃいない。わざとらしい笑顔が寂しげだ。なんとも腹立たしい。
さっそく編集者に対して怒ってみる。結構な金額のバイト代はもらっていたのだがそういう問題ではない。仁義の問題だ怒ってみた。結果、落ち目になったアイドルのヌード写真集をお詫びにもらった。
それでもブチブチ言ってたら、モデルとしての新たな仕事を回してもらうことになった。
これこそ恥ずかしい過去だ。
ティーン向け女性雑誌だったと思うが、「東京キススポット特集」というページだ。何のことはない。都内のアチコチに出かけてキスシーンを撮影するというバカみたいな企画だ。
どうでもいい感じの女の子が私の相棒だ。愛想の良いタイプではなく、楽しくない。でもキスシーンは必要だ。
キスしているフリとか真似事みたいなことはプロである私には出来ない。ちゃんと唇と唇をブチュっとくっつけないといけない。
頑張って随分ブチュ~を実践した。
1日で5~6カ所回った。不思議なもので3カ所目くらいからは人の目があっても平気でブチュ~が出来るようになる。
ついでにいえば、1カ所目のブチュ~で感じたドキドキ感みたいな純粋な気持ちも3カ所目あたりからは何も感じなくなる。
風俗嬢の気分が少しだけ分かった気がした。
公園のベンチにはじまって、原宿の街中、デパートのエスカレーター、電車の中、羽田空港などアチコチでチューをしまくった。
発売された雑誌はさすがに恥ずかしい出来だ。たまたま角度の関係で股間が膨らんでいるように見える写真が載っていたので、親しい友人は笑いすぎて死にそうになっていた。
私自身も死ぬほど笑った。
その後、もう少し真面目な企画ページでもヤラセカット写真のモデルを経験した。あれこそ若気の至りってやつだろう。
つくづく若さって凄い。恐ろしいぐらいだ。目先の変わったことなら何でも食いついていた。
ある意味、あの頃の無鉄砲さを見習わないといけない。
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