2011年8月10日水曜日

朝飯を考える

朝飯は断然和食党だ。気取ったホテルのルームサービスで、変なパンや食べたくもないフルーツやヨーグルトが出てくるとゲンナリする。

やはり白米だろう。日本人が元気になるには白い米だ。

究極の朝飯は生卵かけご飯でしょう。やはり。あのタン壷のタンみたいなデロデロをどかして、多めに醤油を垂らして、熱々ご飯の真ん中に穴を開けてジョワーっと流し込んでかっ込む。グルメだなんだの言ってもこれにかなう好敵手は中々見つからない。

などとお爺さんみたいなことを力説してしまった。私はもともと朝食をしっかり食べるほうなので、変なトーストとか、シリアル類にはまるで興味がない。

理想は、日本旅館の朝食だろう。

ここ数年随分と真っ当な旅館を訪ね歩いた気がする。漠然と思っているのは、イマドキの隠れ家風モダン旅館よりもオーソドックスな保守的旅館の朝飯のほうが嬉しくウマい。

朝から奇をてらったものなど食べたくもないし、かといって、あんまり侘びしいのも旅の朝をつまらない空気にしてしまう。

伊豆方面で言えば、アジや金目鯛などの干物が熱い状態で出てくるようなら合格だ。その他のものも間違いがない。

ビュッフェ形式も悪くはないが、やはり部屋か個室でしっぽりとゆるやかな気分で味わいたい。前の晩の余韻など関係ないような旅行ならいざ知らず、やはりシッポリ系がよい。

欧米人がモーニングコーヒーを愛の証しと捉えるのなら、こっちとらあ、個室でしっぽりモーニング味噌汁だろう。

ここ数年、何度も出かけている熱海・大観荘あたりの朝食は、正しい干物、正しい玉子焼き、正しい味噌汁、その他正しい小鉢がたくさん並ぶ。ご飯も美味しく、お代わりしまくる事態になる。

真っ当な旅館といえば、夜の食事がハイライトだ。正当な日本料理に腕を振るう板前さん達が日々精進している。そんな板前さん達が手がける朝食だ。まずいわけがない

大観荘のほかに朝食が印象的だったのは、伊東のいずみ荘、湯河原の海石榴と白雲荘、登別の滝乃家、仙台・秋保の佐勘、伊香保の福一あたりだろうか。


先日出かけた伊豆長岡の旅館でもイメージ通りの朝食に遭遇した。宿の名前は「正平荘」。ちょっとベタだ。

夕食も予想以上に良かったのだが、その延長線上で朝食も実に真っ当だった。

特別、得体の知れないものはない。そこが安心。イカ刺し、少し炙ったタラコ、自家製のじゃこ、黒はんぺん、おひたし、上等な味噌汁。そして骨が巧みに処理されて頭から丸ごと食べられるアジの干物。

滋味だ。一日が豊かになった。

ここで出色だったのが、オリジナルの自然薯豆腐。文字通り粘り気があって、豆腐の風味と自然薯の風味がうまく混ざり合っている。

夏バテ気味の身体に染みこむ感じだった。


初めて行った宿だったのだが、部屋の質、料理の内容などから見てコストパフォーマンスが非常に優秀だった。予約する段階では、ちょっと安すぎるかなあと逆に心配したが、すべての分野で上手にコストを削って頑張っている感じ。

ここ数年全国で流行している「日本旅館再生プロジェクト」のような改革の洗礼を受けた宿の一つみたいだ。ケチを付けるところはいくつもあるが、価格面から見ればトータルで充分満足できるレベル。

適価という言葉を実感できた。一人一泊5万円から取る旅館だったら、すべてが完璧で当たり前という感覚でこちらも評価してしまう。ちょっとしたダメポイントを見つけた時の落胆も大きい。結構そういう宿は多い。

一方で、心配してしまうぐらいの価格だったのに、フタを開けたら満足できちゃうというのは実に気分がいい。

高級感というには物足りないものの、変に凛とし過ぎちゃっている宿より考えようによってはくつろげる気がした。

特筆すべきはチェックアウトの時間が午後1時という点。全国でも珍しいと思う。それだけで価値を見出す人も多いだろう。

朝飯の話が、宿のウンチク話になってしまった。まあ、誰と行くか、誰と食べるかにも左右されるのだろうが、一人旅でもウマイものはウマイし、ふたり旅でもマズイものはマズイ。

要は自分の好みを確立しておけば、そうそう外れることはないと思う。

先月のパリ旅行では、オシャレなカフェでクロワッサンにカフェオレといった朝食を考えてみたのだが、結局、一度も実行せず。

持ち込んだカップラーメンだったり、前の晩にホテル近くの中華惣菜屋で買った冷めたチャーハンだったり、随分侘びしい朝飯を食べていた。

その点、たった一日の旅館の朝飯だけで、こうやってウダウダと書き込めてしまうのだから不思議だ。

快適な気分で食べる旅先の爽やかな朝飯は、たった一度でもインパクトのある思い出になる。

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