食事にもいろいろある。漫然と食べる生活の一部としての食事。これが大半だ。そのほかには、わざわざ大枚はたいてウマいものを食べに行く食事、仕事や友人関係の付き合いでの食事、デートでワクワクしながら雰囲気も重視した食事、酒を飲むための食事、等々、パターンは数え切れない。
酔っぱらって満腹中枢が麻痺して食べる食事というパターンもある。飲みすぎて吐きまくって空腹になったから食べる食事なんていうのもある。
楽しみをともなう外食というジャンルでは、やはり食べる場所も重要な要素だろう。高級なイタリアンを池袋で食べたいと思わないし、上等なフレンチを池袋で食べたいとは思わない。池袋好きな人、スイマセン。
そんな池袋だって、日本語が通じないほどディープな中国郷土料理の店になら行く気になる。新大久保で寿司を食おうとは思わないけど、韓国料理なら食べに行く。
街の雰囲気は外食する側の心理に多分に影響する。
で、そう考えると「ハレの外食」の総本山は銀座だろう。この街の場合、料理のジャンルに関わりなく、「銀座で店を開いている」ことが一種のステータスになりえるのも事実だ。
実際、銀座の中心地であれば、ダメな店はすぐに淘汰される。ちゃんと成り立っている店であれば然るべき店だと判断できてしまう。
料理のジャンルを問わず、一流店と言われる店が銀座に集結している。フレンチだ懐石だと言った高級なジャンルだけでなく、焼鳥とかおでんとか、その種の日本のファーストフード系も然り。その道の名店と呼ばれる店はたいてい銀座に存在する。
喫茶店やショットバーも、銀座では一種独特な存在感を持つ店が多い。たかが喫茶店、されど喫茶店なんだろう。
そういう店の存在と矜持、それを支える客の侠気にも似たこだわりが面白い。
文化なんてものはこだわりがなければ生まれるはずもない。セントラルキッチンで管理された料理をブロイラーのように食べさせるイマドキのお手軽チェーン店では醸し出せない雰囲気があの街全体に残っている。それが文化につながっている。
ひとつの象徴が7丁目の「ライオン」だろう。端的に言えばビアホールだ。とはいえ、タダモノではないのは知る人ぞ知る存在。
決してオシャレでもないし、出てくる料理が最高の品質というわけでもない。それでも銀座7丁目というあの場所で、妙な風格のなか連日繁盛している。
築80年近くの大ホールの風情はまさに昭和のノスタルジーだし、生ビール注ぎの達人がいたり、なんだかんだとコダワリがつまっている。
さすがに生ビールはアホみたいにウマい。夏場は早い時間から入店待ちの列が出来るのも納得だ。
昭和っぽい感じ、ビアホールならではの料理。この2点を強く意識したメニュー構成も楽しい。画像はいにしえのナポリタンだ。たまに食べると悶絶する。
決して高い店ではないが、銀座という場所の特殊な感じを実感するには最適な場所だろう。あの街でありふれた店に入るのなら、こういう存在感の店でフガフガ飲む方が良いと思う。
話は変わる。
銀座っぽい食事と言って思い浮かぶのは何だろう。人によっては寿司だったり、フレンチだったりさまざまだろうが、私が漠然とイメージするのは、いわゆる「ニッポンの洋食」だ。シチューとかオムライスとか、その手の料理だ。
画像は「南蛮銀圓亭」のカニクリームコロッケ。「洋食」というジャンルのこの手の料理は私の大好物だ。タンシチュー、ハヤシライス、グラタン等々。許されるなら毎日、そんなものばかりで生きていたい。
でも、太っちゃってしょうがないから、こういう料理は自分の中で、何か特別な機会、特別な気分の時に食べるようにしている。
この日、オードブルをいくつも取って、シャンパンをグビグビ、オーナーらしき老婦人の妙なリズムのサービスも和む。ゆったりした店の造りも心地よい。
タンシチューも素直にウマい。ディナーのメニューからは除外されているオムライスも頼めばさっと作ってくれた。
隣では、某元首相夫人が友人らしき人達と楽しげに団らん。こんな客層の不思議な感じも銀座らしさと言えるのかも知れない。
安くはないけど、場所と雰囲気と食べたモノの質を考えれば納得する。この尺度が「銀座での尺度」だろう。私の場合も、あの街では常にその尺度で解釈するようにしている。
たかだかモヒート2杯で5千円もふんだくるバーにも懲りずに行っちゃうし、コーヒー一杯で平気で千円以上取られても笑っていられる。池袋だったら殺意を覚えるが、舞台装置うんぬんを考えたら、あの街の店に落とす単価はそういうことになる。
まあ、夜のクラブ活動の値段自体がもともと意味不明ではある。面白いものでアレはアレで、どんぶり勘定的なお勘定ではなく、一応、明細があることはある。いろいろと細かいチャージに分類されており、ボーイチャージなる科目もある。
黒服さんに愛想良くされたり、トイレの空きを確認してもらう作業もボーイチャージの一環だ!?。まあ、そういう無粋な話をしても仕方がない。そちら方面のシステムにあまり詳しくなるのも夢がないから、アホヅラしてボーっと飲むことにしている。
話がそれた。食事の話だった。おでん、焼鳥といったファーストフード系も銀座には名店が多い。
私が好きな「おぐ羅」も銀座ならではの店だろう。銀座以外では成り立たない店という言い方も出来る。客席が丸椅子の店としては客単価は相当高い。
それでも、今の季節は予約しないと入れないのが普通だ。日本酒も焼酎も種類はなく、奇をてらった料理があるわけではない。それでも、錫のやかんで燗付けをする日本酒は抜群にウマいし、料理も間違いない水準。
六本木や麻布方面の空気とは違う「銀座の濃い空気」に満ちている独特な空間は、はまる人にははまる。
この冬もまた、予約しないで訪ねていって何度も玉砕するんだろうと思う。
最後の画像は、おぐ羅の「だし茶漬け」。四の五の言わずに無言でかっ込む逸品だ。死ぬ直前に何か喰いたいかと聞かれたら、これを選ぶかも知れない。
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