俗に「知らぬが仏」と言われるが、あまり自分に関係のない世界の話に聞き耳をたてるのは趣味がよろしくない。
覗きたい気持はあっても、知ったかぶりほど格好悪いことはないので、やはり知らぬが仏で通したほうが無難なことは多い。
何を書きたかったのかというと、銀座のクラブ活動、略して「部活」を通じて聞こえてくる話だ。なかなか興味深かったので、あれこれ詮索したくなってしまった。
そちらの世界で働いているわけではないし、現実的な世知辛い事情に詳しくなっても仕方がない。呆けた顔で魔界をさまよっていたほうが本来はスマートだ。
でも、ついつい覗きたくなって、聞き耳をたててしまう。いろんな「銀座ルール」がある。ちらちら見聞きするそんな話題のせいで、酔っぱらっていても、変なところが気になったりする。
やはり、知らぬが仏なのかも知れない。
世の中には、銀座のママさんが書いた本が予想以上に出回っている。男向けに書かれた内容ならば、スマートに見られるにはどうしたらいいかなど、役に立つ?こともあるようだ。
これがその道を目指す女性向けに書かれた内容だったりすると、男にとっては心臓に悪い話ばかりだ。
「男を落とすメール術」だとか「お客からお金を引き出すテク二ック」とか、そんな感じになる。あな恐ろしやって感じだ。
知らぬが仏だろう。
俗に「銀座ルール」というものがある。同伴強制日に客がつかまらなかったらペナルティーだとか、遅刻や休み方によってはペナルティーが膨らむとか、慰安旅行に行かなくても旅行費用を強制的に天引きされるとか、退店する月の給料がなんだかんだ言って支払われないとか、実にさまざま。
同じ欠勤するにしても、一定時刻を過ぎた連絡にはペナルティーとか実に細かいらしい。せっかくの同伴客をつかんでも、事前連絡がなければ同伴扱いにならないとかキリがないほどだ。
待遇面以外にも無数に「ルール」が存在する。
乾杯する時のグラスは相手より低くしろ、タバコにはライターよりマッチで火を付けろ、ソフトドリンクを飲む時でもストロー禁止、ウーロン茶も水で割ってウイスキーの水割りのような色にしろ等々。
もっと突っ込んだところでは、ヘアメイクをセットする前に銀座で客と会っていたらNGとか、電車や飛行機で客と隣合わせに座っちゃいけないなんてスンゴイ話も聞いたことがある。
いははや、楽しくお相手してくれる女性陣も何かとがんじがらめで苦労しているようだ。
こうしたルールは、当然、経営側に有利に作られている。ひと握りの勝ち組ホステスさんが、凄まじい金額を稼ぎ出せる一方で、やる気のないヘタレ女性が駆逐されるために築かれてきた一種の文化・伝統なのかもしれない。
あの街があの街であるためには、ヨソの街よりも多岐にわたって厳しいルールが存在することも必要なんだろう。
そんなハードルを乗り越えて、涼しい顔をしているオネエサマがたがいればこそ、プロとしての接客という伝統が継がれていくのだと思う。
どんな世界も生き残っていくのは大変だ。まさに実力主義だけの世界だからこそ、シビアな話も良く聞く。最近は世相を反映した世知辛い話題を耳にすることが多い。
女性陣にとっては気の毒な話でも、経営という点から見ると、「ルール」という名のもとにさまざまなコスト削減を押し通しているそちら業界の経営者が実にうらやましい。
経営する上でもっとも頭が痛い人件費コストを、労働基準法なんてまるで無視して削っちゃうんだから凄い。大半の経営者があやかりたいと思うはずだ。
出勤調整なんて最たるものだろう。その分、人件費コストが丸々浮く。有給休暇などという概念はそこには存在しない。「今日は来ないでくれ。その分の日給は払いません」。なんとも強気だ。
そこまでいかなくても、苦しくなったら強制同伴日などを追加して頑張ってもらい、ダメならペナルティーで給料を多く差っ引く。
被雇用者に対する不利益条項を同意無しで追加し、不遡及の原則など知ったこっちゃない感覚でルールをいじるのだから豪快な話ではある。コンプラうんぬんとは無縁だ。
売掛金の未回収は、丸々全額をホステスから天引きする。休まず働いたのに給料日にいろいろ差し引かれ、支給額ゼロなんて話もあるらしい。
「ルール」が巧妙に機能しているわけだ。一般企業の経営者がそんな荒技を使えたらウホウホだろう。
ちなみに、最近の不況を反映して、昔は無かった店とホステスとの賃金紛争も起きているらしい。
売り掛けの肩代わり、大幅な罰金の天引きとかを不法行為として、未払い賃金請求という形で司法に訴えるケースが出てきたわけだ。
「ルール」なんか気にしない“ユニオン大好き”な女性が増えてくるのだろうか。それもそれで時代なんだろうか。
司法判断がどうなるかは契約形態次第で微妙ではあるが、法律論争となれば、ホステスの立ち位置が「被雇用者」と位置付けられれば、圧倒的に労働者側に有利だ。
こういう動きが増えれば、店とホステスとの間の契約スタイルがギチギチしたものになっていくことは確かだろう。
経営サイドにすれば、雇用ではなく、請負とか委託にすることで、あくまでホステスを個人事業者と位置付ける。すなわち、労働基準法のラチ外に置けば心配事はなくなる。
ただ、遅刻イコール罰金などという常識がついて回る以上、いま話題の「名ばかり管理職」の労働紛争と同じで、契約書面の形式より実質が判断され、経営側が窮地に立たされる恐れもなくはない。
少なくとも、契約関係が曖昧なままだと、食えない弁護士とかの士業センセイあたりから、ホステスさんの未払い賃金紛争を仕掛けられてもおかしくない。
そうなりそうなら今度は、店とホステスとの契約方法を上手に指南する専門家なんかも引く手あまたになるのだろう。
うたかたの夢を求めてあの街を徘徊する男たちにとっては、まさに「知らぬが仏」の話ではある。
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