2014年6月13日金曜日

旅の酒


たかだか1泊、2泊だろうと、旅に出ると五感が刺激される。仕事絡みの出張ではなく、純粋に私的な時間であれば尚更そんな感じになる。

国内旅行、海外旅行それぞれの良さがあるが、私の場合、国内だと深酒しちゃうことが楽しみ、いや問題である。

治安の悪い東京の繁華街でうろついている変な自負のせいで、地方都市の歓楽街で緊張することはない。

今の時代、そういう油断は禁物だが、ついついユルユルした気分で呑んだくれてしまう。普段とは違う解放感のせいで酒がウマく感じてしまうのだから仕方がない。

旅の酒は、店探しがまた楽しい。お目当ての郷土料理がある時は事前に店を調べるが、ふらふら行き当たりばったりにノレンをくぐるのも楽しい。

あてずっぽうに店に入った場合、たいていは失敗する。5軒に3軒は失敗、残りの1軒がまあまあ、あと1軒が当たりといった感じだろうか。


基本的に「しっぽり系」「渋い系」の店を狙う。いい感じの風情を漂わす店を探す。結果、デカい規模の店は避けることになるが、そんな基準で選ぶと大当たりの確率は低い。

どうしても常連だけが占拠しているような窮屈な空気の店が多い。こればかりは仕方ない。その日かぎりの旅人など構ってはもらえない。

そこそこ居心地が良くてもロクな食べ物が無い店もある。気の利いた土地ならではの料理を楽しみたいが、現実はそう甘くない。地元の人がいつも郷土料理を食べているはずもない。

肉じゃが、きんぴら、タタミイワシぐらいしか無かったりすると、正直言って暴れたくなる。

まあ、それなら観光客相手の大箱店に行けばいいのだから、私の願いなど、しょせん旅人のワガママではある。

そこそこ愛想が良い店主がいて、そこそこ混雑していて、そこそこ旅心をそそる酒肴のある店に巡り会うと、思わず表情が緩む。


とりあえず、アウェーな感じを楽しむ。Sっぽい人よりMの要素があったほうが、この「いたたまれないような時間」を楽しめる。少しだけぎこちない気分で飲み始めるのも旅先ならではの趣だ。

カウンターの向こう側にいる店主の動きを何気なく観察して、時々ボソボソと声をかけたりする。料理を誉めたり、食材について尋ねたり、少しずつ距離が近づいていく。

酔いも手伝って次第に話が弾みはじめたらこっちのものである。その土地の思い出がその先20年ぐらい素晴らしいものになる。

もちろん、その逆も然りだ。普通のスナックだと思って入った店が、単なる売春斡旋所だったこともある。机、椅子、コップ、皿、すべてが油汚れでベトベトだった店に入ったこともあった。

おかげで〇×県とか▽〇県の印象はネガティブなものになってしまった。

調子に乗って失敗した思い出も数多い。だいたい飲み過ぎてゲロゲロになった思い出だ。

たいていは若い頃の話である。一人旅の愛媛のスナック。婆さん3人に囲まれさんざん飲まされて視界が延々とグルグル回ったこと、沖縄の小料理屋で泡盛のキュウリ割りなるシロモノを延々と飲まされて目が白黒し続けたこと、酔っ払った料理屋の主人に「一期一会という言葉を知っているか?」と1時間に100回ぐらい聞かれてノイローゼになりかけたこと、思い返せばキリがない。

いずれにしても、良い思い出もツラい思い出も一人旅の時に経験した。誰かを伴った旅だと、どうしてもその相手の都合にも気を配らないとならない。

でも、いろんな料理をオーダーして、テーブルにアレコレ並べたいタイプの私としては、食事の際に大量に注文できるから大いに嬉しい。

そのためだけに誰かを旅に誘うなどと言ったら嘘っぽいが、実はそれが真相だったことも過去にはある。

ところで、「美しき酒呑みたち」というBSの旅番組をご存じだろうか。新井浩文という俳優が、視聴者オススメの各地の飲み屋でゲストとともにグイグイ呑んでいるだけの番組だ。

壱岐の飲み屋を訪ねた時のゲストはリリー・フランキー。焼酎を延々と飲みながら酒飲み話。1体70万円のダッチワイフを自慢するリリーフランキーが「人間を相手にしているようじゃ甘い」と真顔で語る。

まさに番組タイトル通りの秀逸な場面だった。

誰かと旅するとしたら女性もいいけど、やはり同性との旅は無条件に楽しい。30代の頃までは旧友達と頻繁にバカ騒ぎ旅行に出かけていたが、いつのまにそれぞれの家庭の事情もあって行かなくなってしまった。

友人の入浴中に風呂場にロケット花火を打ち込んだり、先に寝ちゃった友人を起こすために寝室にロケット花火を打ち込んだり、緊張感あふれる旅だった。

あの面々とのアホバカ旅が復活したら、この年になってもロケット花火が乱れ飛ぶのだろう。

あの頃の旅の進化形?として、有志一同が恒例行事として頻繁にバンコクに出かけている。

みやげ話は常に唖然とするほど強烈である。次回あたりは気合いを入れて参加してみようかと思う。

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