2014年8月11日月曜日

エゴの喜び


それにしても猛暑である。我ながら元気で暮らしていることが不思議なぐらい暑い。若いのだろうか。うん、きっと若いのだろう。

そういえば、最近クルマを換えた。「一人者のくせに4ドアセダンに乗ってるのはおかしい。2ドアクーペでスカしているべきだ」。ある人から言われたもっともらしい理屈にのせられて10年ぶりぐらいに2ドア車にチェンジした。

車高は低い、なんとなく派手、う~ん頑張らないといけない。スカした顔してドライブしなければならない。

運転中は、たいてい信号待ちで必死になって鼻毛を抜くことに集中する私だが、そんな習慣からも卒業しないといけない。

暑苦しいこんな季節だからこそ、シュっとした顔を作ってキリリとした様子で生きていたいと思う。

などと、頑張っているつもりでも劣化していく身体の現実はいかんともしがたい。最近ショックだったのは立ったまま靴下が履けない自分に気付いたことだ。じつに悲しい。無理したところで、すっ転んで怪我するだけだからヨッコラショと言いながら座って靴下を履くようになった。

先日はかつてないほど強烈な胸焼けに襲われた。いよいよ重病モードに突入かと思って、そそくさと胃カメラを飲みに行った。

定期的に胃と大腸の内視鏡検査をしてもらっているクリニックを訪ねたのだが、ここはカメラを突っ込む前に強力な危険ドラック、いや、強力な鎮静剤のような薬でコテっと寝かせてくれる。

当然、苦しい要素はゼロである。むしろ、クスリで落とされるときのフワフワ~と天国に行くような気持ちよさは最高である。

検査用の採血のついでに注射器ででクスリ注入。ものの1~2分でクラっとし始める。そこで落ちないように抵抗するのが私のいつもの楽しみ方である。

ストンと落ちそうになると、ドクターに世間話を仕向けて復活を試みるのだが、そんな抵抗もものともせず、ヤクは私の神経をフニャフニャにしていく。

「負けないぞ~」と悪アガキをしている私の様子をドクターと看護婦さんが「このバカ、またやってるぜ」という顔で見下ろしている。私の「負けないぞ」という叫びは徐々に「ふぁ~けない~じょ~」に変わり、気付けば熟睡である。

30~40分経った頃、ふと目覚める。検査機材も撤去された部屋には私一人。何となくバカが取り残されたような変な敗北感に包まれる。

私が落ちたあと、ドクターと看護婦はクソミソに私の悪口を言っていたかもしれない。ヘタすると鼻クソを私のオデコに塗りつけていたかもしれない。

そんなヒマじゃないか。

この検査、というか、この強力鎮静剤は、全身の力が抜けていく作用がある。そのため、終わった後に肩こりなどが一気に解消する。身体が軽くなって、おまけにしばらくはフワフワした副作用が残っているから最高である。

肝心の検査結果は、一部のただれた部分を病理検査に回したようだが、思ったよりも快調だったらしい。ドクターいわく「いつもと変わらないよ」とのこと。

あの激しい胸焼けは何だったんだろう。きっと身体が発した何らかのサインなんだろう。そう思うことにした。

病理検査用に何カ所かの胃壁をちょろっと削ったので、その日はアルコール禁止という過酷なお達しを命令されてクリニックを後にした。

既に夕方である。朝から何も食べていない。空腹の極みである。検査結果も悪くなかった。これはどこかでドカ食いだとワクワク歩き始める。

こういう時、どこで何を食べようかとアレコレ考えてる時間は至福の時である。際限なくイマジネーションは拡がる。羽田から飛行機に乗ってジンギスカンを食おうかと一瞬だが真剣に考えたほどだ。

結局、頭に浮かんだのはピラフだった。この日は皇居そばのパレスホテルに向かう。


リニューアルオープンしてからカッチョよく変身したパレスホテルは、1階のカフェレストランも小洒落たメニューに一新されてしまった。

でも、オールドファンのため、ほんの数種類は昭和からの人気メニューを残している。私の目当ては当然そっち方面である。

シーフードピラフと舌平目のボンファムで決まりだ。ピラフの量が結構多めなのは知っているが、ドカ食いしたい時はもう一品必要だ。


そこで舌平目である。この料理、舌平目自体は大した量ではないが、周りを取り囲む有り得ないほどクドい大量のクリームソースが特徴である。

アルコールは禁止だから、しぶしぶ生ビール一杯だけで我慢しようと思っていたのだが、サービスで出てきた焼きたてパンをオリーブオイルにヒタヒタして食べていたら、どうしたって白ワインが欲しくなる。

おまけにクドいホワイトソースの魚料理が登場しちゃったわけだから白ワインちゃんも一杯だけ飲むことにした。

この舌平目のボンファム、美味しいけど、ビックリするほどクドいので白ワインは必需品である。胃壁がどうたらとか言ってる場合ではない。

そして、秘伝のソースをビチャビチャかけながら食べるピラフである。いやはや私にとっての天国とはこれを口にしている時のことを言うのだろう。


可愛いオネエサンの巨乳に顔を埋めることと、このピラフをガシガシ食べることのどちらか一つを選べと言われたら、私は迷わずピラフを選ぶ。本当である。きっと。たぶん・・・。

この日、検査の後だったし、夜と呼ぶには早い時間だったし、当然付き合ってもらう人はおらず、お一人さまディナーである。

誰かと美味しさを分かち合うことは素晴らしいことだ。美味しさをより強く感じることが出来たりする。

でも、死ぬほど食べたかったウマいものを誰に遠慮することなく、一人で抱えてウホウホ食べることも違った意味で至福の時かもしれない。

名付けて「エゴイッシュ・エクスタシー」である。そんな戯れ言を言い続けていると、ますます偏屈ジジイの道を極めそうで問題である。

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