2015年1月16日金曜日

あたみ石亭・桜岡茶寮

正月休みが明けた途端の連休を使って熱海に行ってきた。何となく湯河原と熱海にはちょくちょく出かけているような気がする。

温泉旅である。泉質にとやかく注文をつけたくなる年頃の私だが、熱海や湯河原は泉質以前に気軽にサクっと行けちゃうから大好きである。

泉質も悪くない。テキトーな宿はさておき、真っ当な旅館に行けばキチンと沸かし湯ではない源泉を味わえる。いつまでもポカポカしていられる塩味系の湯だ。

熱海の場合、新幹線なら東京駅から40分ぐらいで着いちゃう。それじゃあまりに旅行気分が味わえないので今回は気ままなドライブ旅だ。

冒頭の画像の富士山は、箱根ターンパイクからの眺め。新年早々なかなか縁起がいい景色を堪能できた。

泊まった宿は「あたみ石亭・桜岡茶寮」。老舗のしっぽり宿である。何年か前に石亭の本館に泊まったことがあるが、桜岡茶寮はその別邸扱い。より優雅な位置付けとのこと。

他の客と顔を合わせたくない有名人が好みそうな宿だった。誰からも逃げ隠れする必要のない私にとっては、あまり意味はないが、そんな隠れ家的、お忍び的な要素が値段に反映されているかと思うとビミョーである。


そもそもロビーというかフロントスペースが無い。玄関先に乗り付けたクルマを係のオジサンに預けて、そのまま石畳の小道を歩いて離れの部屋に案内される。

本館の石亭も全室離れの宿だが、別邸の場合はチェックイン、チェックアウトの際にフロントを通過しない点が特徴だ。

別邸には大浴場がない。ゆとりのある広さの客室露天風呂に源泉がバンバン掛け流しになっているので、それで充分だろうというのがコンセプトみたいだ。

もちろん、風情たっぷりの敷地を歩いて5分ほど行けば本館の大浴場に辿り着く。どうしても泳ぎたいオッサンとかはそっちに行けば問題ない。

ということで、別邸に泊まっていると本館の大浴場に散歩に行かないかぎり他の客とは顔を合わせない。

有名人でもお忍びでもない私にとっては、別邸を選ぶ理由はなかったのだが、まあ一時の富豪気分を味わえたからブツブツ言わないことにしよう。

総論としては、非常に良い宿だった。奇をてらったところはまるで無く、純粋な日本建築の落ち着いた建物の風情、部屋からの庭の眺め、食事、サービス等々何も問題ナシ。というか、とても快適だった。

いまどきの和モダンという路線も悪くないが、「昔ながらの100%ニッポン」を体現したような宿に漂う凜とした空気に素直に癒やされた。


部屋の露天風呂は、やや開放感に欠けていたが、それを補う広さとお湯の良さを堪能できた。

室内の脱衣所からつながる露天風呂の屋根部分には温熱機が設置され、湯船に向かう前の寒さを和らげてくれる。

源泉が熱かったので水で薄める。「加水された温泉」になってしまうが、薄めないと熱湯風呂状態だったので仕方ない。

それでも充分に気持ちよかった。湯冷めしなかったから温泉効果もバッチリである。相変わらずお下品系週刊誌なんかを読みながら葉巻をふかしてノボせた。

食事も全部美味しかった。このクラスの旅館になれば、マズいものが無くて当然とも言えるが、先付け、前菜の細かな品々も実に丁寧で幸せな気分になれた。


コケおどし的な演出や奇をてらった品が一つも無かった。裏返せば一品一品に相当自信があるからだろう。正統派中高年?である私は、そういうさりげない感じに妙に感激する。

刺身ひとつとっても、お決まりの?マグロが無かったことが嬉しかった。変な言い方だが、これって結構大事なことだと思う。

たいていの旅館が無節操にマグロさえあれば客が喜ぶと思っている。闇雲マグロである。あれは間違いだと思う。

そこそこの価格帯の宿を選ぶ客なら、ウマいマグロは日頃から口にしているし、それよりも地元の旬な魚を出されたほうが余程うれしいはずだ。

感じの悪い書き方になってしまうが、これって無視できないポイントである。山の中の旅館に行ってまでトロを食べたいとは思わないし、旅の楽しさの一つが馴染みのない土地の食べ物を味わうことだから、日本中にはびこる「闇雲マグロ」の習慣は改善した方がいいと思う。


この画像は、地モノの金目鯛の豆乳小鍋仕立て。出された料理のすべてがウマかったが、この料理がとくに印象的だった。

さてさて、印象的な品があったわけもないのに印象的だったのが朝ご飯である。なんか変な言い方ですいません。

鰺の干物をはじめ、ごくごく普通の品揃えだったのだが、煮物や味噌汁、もろもろの小鉢も全部ていねいな味付けだった。ふっくらしたウナギがちょこっと入った茶碗蒸しも絶品だった。

朝からヘンテコな料理を出されるより、上質なコンサバを徹底してもらったほうがオトナ男としては嬉しい。


30代後半になるまで干物など見向きもしなかった私だが、中年以降、伊豆方面の真っ当な旅館で干物観が様変わりするような逸品を味わううちに大好きになった。

いまでは、それっぽい宿に出かけると夕飯より朝飯のほうがワクワクする。もともと朝飯をしっかり摂るほうなので、旅館のスペシャル朝食だったら無尽蔵に食べ続けそうな勢いでかっ込む。

朝の弱い女性と一緒だったら、相手をいたわるフリをして、結局ふたり分をがっつり食べてゲップをブヒブヒしている。

ウダウダ書いたが、「高級旅館の楽しみは朝飯に尽きる」。これが結論だ。

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