その昔、寿司に詳しい大人になりたいとアレコレと客の立場での修行?に励んだのだが、その延長線上でぶつかったのがカニである。
口にすれば誰もがウマいウマいと喜ぶのに専門店は少ないし、詳しい人も少ない。だったら自分が詳しくなろうと、15年ぐらい前に一念発起してカニをドシドシ食べるようになった。
毛ガニ、ズワイガニ、タラバにワタリガニ、上海ガニやヤシガニまであちこちで食べてきた。カニを食べるために全国各地を旅したこともある。
味の好みは人それぞれだから私の趣味を一方的に押しつけるわけにはいかないが、カニ食い修行のついでに学んだのはカニの味だけではない。カニの名前をめぐる奇妙な話である。
「カニ」と名が付くカニはいない。
なんだか禅問答のようだが、数え切れないほどのカニの中で「○△カニ」はいない。すべて「○△ガニ」である。
どうでもいい話ではなるが、実に謎めいている。小さい沢ガニも大きなタカアシガニも、ズワイもタラバも毛ガニもみんな「ガニ」だ。
ズワイガニの産地別の呼び名に過ぎない松葉ガニ、越前ガニ、間人ガニしても「ガニ」である。
どこかの産地が「○○カニ」というブランド名を勇気を持って命名しないかと注目しているが、まるで法律で規制されているかのようにガニガニ大攻勢状態である。
私が水中撮影マニアだった頃に出会った日本で一番ヘンテコな名前の生き物である「スベスベマンジュウガニ」も当然のように「ガニ」だ。
だからどうだという話ではない。理由も知らない。とにかく私は誰彼構わず「この世にカニなんて実はいないんだよ」と熱く語ってしまう。
とくにオチはない。。
さてさて、私が一番ウマいと思うのは毛ガニである。身もウマいがミソが堪らない。オレンジと黄色が混ざったような色合いが鮮度の良い証しだ。
思えば毛ガニという名前も随分と大胆だろう。毛がじょろじょろと生えているから毛ガニである。
世の中の生き物の中でそんな名前のヤツはいない。ライオンのオスのタテガミがもじゃもじゃ生えていても「毛ライオン」とは呼ばない。
オランウータンが毛むくじゃらでも「毛ザル」とは呼ばれないし、どんなにモジャモジャでも「毛鳥」なんてヤツもいない。
毛が名前に付いている生き物は毛ガニの他には「毛ジラミ」ぐらいである。あんまりだ。
にもかかわらず毛ガニは毛ガニという乱暴なネーミングである。ちょっと気の毒だ。
ズワイガニのズワイは木の枝の呼称に由来するそうで、タラバは文字通り鱈の漁場で揚がることが名前の元だ。
ワタリガニだって渡り鳥のように海を移動することが名前の起源らしいから、それらに比べると毛ガニという名前は残念だ。
北海道や青森あたりで人気のクリガニは毛ガニの仲間らしいが、毛ガニより知名度の点では劣る。でもトゲトゲを栗に見立てた立派な名前があるわけだから毛ガニの残念さは際立つ。
タラバは本来、種族的にはヤドカリの一種で足の数も少ない。味もどちらかといえば大味だ。ズワイは上モノはブランド化しちゃって妙に高い。
そんなこんなで私は毛ガニを愛しているのだが、愛している相手の名前がシャバダバなことはちょっと悲しい。
ボッキュンボンの峰不二子みたいな愛人がいたとする。そのコの名前が「トメ」とか「ツネ」だったら何となく切ない。そんな感じだろうか。。。
今日はカニの美味しさを力説するつもりが迷走してしまった。
全国のトメさんツネさん、ごめんなさい。
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