ウナガーだ、ウナギニストだなどと自称するほど私はウナギが大好きだ。年柄年中ウナギを食べたくなる。疲れている時は尚更だ。
もうすぐ土用の丑の日である。鰻屋さんがどこも鬼混みになるからその前後はさすがに避ける。職人さんの仕事が雑になりかねない大混雑する日にわざわざ食べようとは思わない。
そもそもウナギの旬は冬だ。夏場はウナギが売れなかったから江戸時代のスーパークリエイター・平賀源内が無理やり編み出したのが土用の丑の日にウナギを食べる習わしである。
江戸時代はおそらくウナギは天然モノばかりだろうから夏場は痩せたウナギしかなかったはずだ。エアコンも無いしきっと鰻屋さんは閑古鳥状態だったのだろう。特別なキャンペーンが必要だったわけだ。
有難いことに今は養殖技術の発達で一年中脂ののったウナギが楽しめる。中途半端な天然モノより真っ当な養殖ウナギのほうが美味しいのは間違いない。平賀源内さんがこじつけた「夏こそウナギ」というキャンペーンはむしろ現代社会にハマっていると思う。
バテやすい夏にはウナギで精をつけたくなる。疲労回復に効き目のあるビタミン類を豊富に含む滋養強壮食品だから、私が何とか日々元気に過ごしているのもひょっとしたらウナギのおかげかもしれない。
最近も1週間に3度もウナギを食べた。それぞれの店で白焼きも鰻重も堪能したから、少なくとも1週間で6尾以上のウナギを食べた計算になる。ウナギ供養のためにも疲れたなどと口にしてはいけない気がする。
以前より食が細くなったことがウナギ攻めに関しては良い効果を生んでいる。というのも以前の私なら「鰻重はご飯が見えてはいけない」というバカげたこだわりがあってテンコ盛り鰻重がある店ばかり通いがちだった。
冒頭の画像みたいな鰻重こそ正義だと信じていたわけだ。そんなフードファイト状態が当たり前になっていたせいで、最上ランクでも「ご飯が見える鰻重」を出す店にはついつい足を運ばなくなってしまっていた。
最近は白焼きや他のツマミも食べた後にテンコ盛り鰻重を食べるのがさすがにキツくなってきた。というわけで、ようやく私も「シメの鰻重はご飯の見える普通サイズ」で注文するようになってきた。
おかげで今まで足が遠のいていたお店にも行けるようになった。食後の苦しさも以前より遙かに軽減された。とても良い循環である。だから週に3度もウナギを堪能できるわけだ。
上から小伝馬町の高嶋家、人形町の喜代川、築地近くの竹葉亭本店の鰻重(鰻丼)である。どの店も共通しているのは店構えが「古くて渋い」ことである。私にとってこの要素は大事だ。
近代的なショッピングビルにも美味しい鰻屋さんはいくらでもあるが、ナゼか私は古めかしい建物を構える鰻屋さんに惹かれる。モダンな店、ジャズが流れる店みたいな雰囲気でウナギを味わいたくないという変なこだわりがある。
渋い風情の店をふらっと一人で訪ねてボケーっとウナギを待つ時間が好きなのかも知れない。待たされることが大嫌いなのに鰻屋さんだと不思議と待つことに喜びを感じたりする。Mである。
枝豆をつまみにビールで喉を潤し、肝焼きや白焼きが出てくるタイミングで冷酒に切り替え、緩やかに少しずつホロ酔いになっていく課程が楽しい。
牛丼屋みたいに秒速で鰻重が出てきたら興醒めだ。待つことも含めてウナギの味だと思う。まあ、そうは言ってもウマい鰻重が吉野家の牛丼みたいに秒速で出てきたらそれはそれで嬉しいかも知れない・・・。
いや、それはやはり反則だ。鰻重は待ち時間も味のうちだと一応断言しておく。
今日紹介した3軒とも渋さはバッチリだ。待つための空間はこうであって欲しい。一人ふらっと訪ねる場合は開店直後など空いている時間を狙うのが一種のマナーだ。
そんな空間でウナギ好きなら知る人ぞ知る冊子「うなぎ百撰」でもパラパラめくりながら過ごす時間は格別だ。うなぎ百撰の画像の下はそれぞれ高嶋家、喜代川の店内。「鰻屋さんっぽい感じ」はやはり大事だと思う。
以前、いまは無き寝台特急北斗星で北海道まで十数時間を一人のんびり過ごしたことがある。長い時間そこに居続けなければならないと不思議に気持ちが落ち着いた。ジタバタしたってしょうがないみたいな達観が心の沈静化につながったようだ。
鰻重を待つ時間はあの時の気持ちにちょっと似ている。ジタバタせずに待つしかない。そう割り切ってしまえば自然と心がほぐれてくる。そして鰻重が登場して蓋を開けたときの感激で一気に覚醒する。
味だけでなくそんな心の動きを楽しめるのもウナギの効能かも知れない。
こんばんは。
返信削除週に3回とはすごいですね。
加齢によりすっかり食が細くなりうなぎも、気に入っている箱根湯本のうなぎ屋にこないだ行ったので、今度食べるのは秋に温泉に行った時かなあ、と思うこの頃です。
古くて渋い店、賛成です。だけど、そうした店も座敷が無くなり、もともとお茶室だった部屋に椅子を持ち込んだりと、興ざめが否めません。たらたらとつまみをつまんで、途中、女将さんが若女将を連れて挨拶に来る、そのうち蒲焼が…というのが理想の店だったんだけど。
早いとこ座敷の店に行っとかないと、と思う今日この頃です。
佃在住さま
削除コメントありがとうございます。
確かにウナギは店の風情も味に影響すると思います!