若い頃のように傍若無人に食べるのは厳しくなったが、今も私は揚げ物が大好きだ。例外なく茶色いのが嬉しい。世の中のウマいものは茶色であることが前提である。揚げ物は茶色代表だ。
一時期、トンカツにハマってあちこちの人気店にわざわざ出かけた。さすがにどこも美味しかったが、高田馬場にあった「成蔵」と神楽坂の「あげづき」はとくに印象に残っている。
それぞれのお店の評判を聞きつけて通い始めた頃は普通に気軽に入れたのだが、その後いつのまにか大行列店になって足が遠のいてしまった。並ぶのが大の苦手だから仕方がない。
先日、日本橋界隈をブラブラしていたらコレド室町テラスという新しいビルに「あげづき」の支店を発見した。有難いことに空いている。迷わず入ってみた。
ガラガラの空間ならノンビリ楽しまないといけない。まずはビールだ。前菜3点盛りとオニオンスライスで久しぶりのウマいトンカツを待つ。ヨダレでろでろ状態である。
あれこれウンチクも書いてある。こういう言い訳、いや、注釈があると待つ時間も楽しい。ちなみに久しぶりの訪問だったから一番高いヒレカツを頼んだ。富豪みたいである。
こちらのトンカツは揚げかたの関係で色が淡いのが特徴だ。とはいえ茶色だからウマいのは当然だ。トンカツの他にメンチカツも1個だけ注文する。
メンチが先に来て欲しかったがヒレカツと一緒に登場。このメンチがなかなか良かった。まさにビールのためにあるような一品である。優しい味わいの極上ハンバーグのような塊が揚げられている。周りに誰もいないからウッシシとつぶやく。
肝心のヒレカツはさすがに素晴らしい肉質だった。上等な店で高い値段を取るヒレカツはハズれることはない。どうでもい店で食べるとパサパサの残念無念な仕上がりになるが、定評のある店ならヒレこそ注文すべきだろう。
本店に比べるとやや衣が邪魔な印象があったが、とにかく肉の揚げ加減が絶妙だったから文句を言うのは申し訳ない。肉の味の濃さ、柔らかさともに高いだけのことはある。
上等なトンカツがビールに合うのはもちろんだが、豚肉の力強さは芋焼酎と合わせるのもアリだ。ソースをまとったヒレカツに齧り付いて口中にアノ味わいが広がった直後にロックの芋焼酎をグビッと流し込む。泣きたくなるほどの充実感である。
安さを追い求めるのも大事だが、日々生きるための食事とは違い、楽しむための食事の場面では奮発して上等なものをあえて注文する方がQOLの点で正しい。そのぶん心が幸せを実感する。
こちらは別の日に食べた上等なヒレカツ。自宅近くの「甲州天山」という店の特上だ。確かこれも3千円オーバーだったが、こういう値付けの場合にはロースよりヒレのほうが感動は大きい。
衣がちょっと残念だったから行儀悪く衣を剥がしながら食べた。良い肉をしっかり味わうためにはそんなマナー違反も仕方がない。ビックマックの上と下のパンを捨てながら食べるよりは健全だと思う。
トンカツをめぐってはヒレ派とロース派が長年にわたって熱い議論を戦わせているが、個人的には「安い店ならロース、高い店ならヒレ」を一つの基準にしている。
高い店の高い値付けのロースはヘタすると脂が多すぎてちょっとキツいケースが多い。中年になれば奮発して上等なヒレカツを選ぶのが間違いないと思う。
などとトンカツのことばかり書いてしまったが、世の中にはウマい揚げ物がゴロゴロしている。コロッケしかりエビフライしかり、マックの芋だって揚げたては妙にウマい。
カキフライにしても揚げないで食べる牡蠣とはまるで違った美味しさがあるし、大衆串カツ屋で出てくるチーズ串をソースにベトベトつけて食べるのだって悶絶するほどウマい。
若い頃の暴飲暴食がたたって逆流性食道炎という持病と付き合っているのだが、それが無ければもっともっと揚げ物三昧の日常を過ごしたはずだ。つくづく若き日のアホな食べっぷりを後悔する。
そうは言いながら考えてみればわりと頻繁に揚げ物を食べている。単純に薬のおかげである。3割負担だから国に7割も出してもらって揚げ物を楽しんでいるわけだ。
ウマいトンカツを食べ続けるために愛国者でいようと決意した。
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