2024年4月8日月曜日

肉質は大事だけど

 

その昔、私の身体は焼肉屋のカルビで形成されていた。13食カルビと白飯だけで生きていたいと本気で思っていた。20代半ばまでは激しい焼肉愛に満ちていた。

 

おそらく一生分の焼き肉を食べたのだろう。30代ぐらいから焼肉活動は徐々に減退し、いまや苦手な食べ物に近づきつつある。実に残念かつシャバダバなことである。

 

時々は今も焼肉屋に行くのだが、自ら進んでというパターンは無くなってしまった。行けば行ったで赤身肉をそれなりに食べて満足するのだが、やはり牛肉はちょっと重い。長生きする人は晩年まで牛ステーキを平気で食べるそうだから見習わないといけない。

 


 

昔と違ってイマドキの焼肉屋さんでは「そのままの生肉」がデンと供されることが多い。鮮度の良さをアピールする意味もあるのだろう。私がせっせと焼肉屋に通っていた頃とはちょっと様子が違う。

 

昔は生肉そのままではなく専用のタレにビシャビシャと浸った状態の生肉が出てくるのが一般的だった。肉を柔らかくする効果の他に日持ちさせる狙いもあったのだろう。焼肉といえば、よほどの高級店以外は漬けダレに浸った肉を焼いてそれをタレに付けて味わうのが普通だった。

 


 

個人的にはこの画像のように漬け込まれていて欲しい。これだって軽めだ。昔はもっと大量のタレの中でちょっと色が怪しい肉が漬け込まれていた印象が強い。あまり怪しい漬け込み肉はさすがにイヤだが、真っ当な範囲で漬け込まれていてほしいと常に思う。

 

今も大衆的な店ならそういうパターンの肉が出てくるが、ちょっと高級路線の店になると途端に「そのままの生肉」が自慢げに出てくる。おまけにワサビでどうぞ、みたいな謎の食べ方を勧められる。

 

「違うんだよな~」といつも心の中でつぶやく。ステーキ屋や鉄板焼き屋とは違って焼肉屋である。昔の習慣のせいで焼肉を食べたい気分の時はビショビショにタレに浸かった肉を食べたい。ワサビなどは論外だと感じてしまう。

 

そりゃあ肉そのものの美味しさを味わってもらいたいという店側の思いは尊重しないといけない。でも私の中の固定観念は「ちぇ、またそっち系かよ」とゲンナリする。

 

いつだったか、銀座の洒落た焼肉屋で衝撃を受けたことがある。肉はすべて「そのままの生肉」でビショビショ系は皆無。おまけに焼肉のタレすら用意されていなかった。すべてワサビか大根おろしか塩で食えという。思わず絶句した。

 

“焼肉脳”になっている時に焼肉のタレが出てこなかったら暴れたくなる。寿司屋で醤油が出てこないのと同じである。「漬け込まれた肉を焼いてタレに付ける」のが焼肉だと信じて生きてきた私には理解不能だった。

 





ちょっと前にディープタウン・亀戸の人気店「ホルモン青木」に行く機会があった。汚さがウリ?といった風情の渋い店だ。あれこれ注文して楽しく過ごした。でもこういう路線の店でも高価格帯の肉は漬け込まれていないそのまま状態で出てくる。

 

肉の味に関してごまかしが効かないわけだからビシャビシャ漬け込んだ肉ではないほうが正しい姿ではある。それでも昭和のシュールな焼肉屋に日参していた私にはどこか腑に落ちない感覚もある。

 

最近何度か訪ねた人形町の焼肉屋さん「okideli」もかなりウマい肉をあれこれ提供してくれるのだが、基本は「そのまま肉」だ。メニューによってはちょこっとタレが塗ってある程度だ。肉質に自信があるこそこのパターンなのだろう。

 





ねぎ塩であらかじめ揉み込んであるタンがとてもウマかったが、美味しく感じた理由のひとつが「そのまま肉」ではなかったというこだわりかもしれない。やはり個人的にはその店なりの味付けで漬け込んだ肉を出して欲しいと思う。


単なる生肉ならかなりの高級品だってデパ地下にでも行けば簡単に手に入る。「焼肉屋のアノ味」を食べたい私にとっては、肉質が落ちようとも漬け込まれた肉が魅力的に思えるわけだ。

 

焼肉のタレの味も昔とはずいぶん変わったように感じる。すっきり系であることは結構なのだが、スッキリし過ぎている傾向にある。

 

昭和を賛美するわけではないが、昔の焼肉屋さんで出てきたタレはもう少し旨味と甘みが強くてコクを感じた。私の思い出補正のせいでそう感じるのかもしれないが、時々、昔ながらのタレに遭遇するとその思いは間違っていないと実感する。

 

新富町の外れに「KAZU」という焼肉屋さんがある。開いているのか閉めているのかわからないようなシュールな?店構えの店だ。良くも悪くも昭和にタイムスリップしたような雰囲気だが、ここのタレは昔ながらの懐かしい味がする。どこがどう違うのか上手く説明できないのだが、行くたびに「これだよこれ!」とつぶやいてしまう。

 

焼肉が大好物だった時代からもう30年ぐらい経った。きっとその時代で思考停止しているせいで私にはそんなちっぽけな思い込みがあるみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

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