2021年3月22日月曜日

海老の握り

寿司ネタで何が一番好きか。人によってさまざまだ。私自身もたぶん数年単位で好みは微妙に変わる。

 

いま一番好きなのはエビの握りだ。エビより海老と書いたほうがシックリくる茹でた海老の握りである。

 



 

若い頃は茹で海老よりも生モノが好きだった。甘エビ、ボタンエビ、シマエビ、オニエビ、ブドウエビ等々、いろんなエビを食べてきた。

 

生のエビの甘みは独特だ。あれはあれで魅力的だ。茹で海老は安い回転寿司屋やスーパーで売っている寿司盛り合わせに入っているペラッペラの謎エビ?のせいで世間での地位はかなり低い。

 

その昔、それこそ握り寿司が誕生した江戸時代には茹で海老は寿司におけるスター級の存在だった。

 

冷蔵庫など無い時代である。生モノは食べないから、いわゆる仕事を施したタネで寿司は握られていた。

 

マグロのヅケ、穴子や煮ハマグリ、コハダ、白身の昆布締め等々、手間を加えたものばかりだが、当然、エビも茹で海老が標準だ。

 

そうなると色合いも美しいし、海老様が寿司ネタの中でスター級になるのも納得だ。浮世絵にだって海老の握りは出てくる。

 



 

ちゃんとしたお寿司屋さんで出てくる茹で海老は、テキトーな店で出てくるものとは段違いで美味しい。

 

ペラッペラの紙みたいな怪しい謎エビ握りを子供の頃や若いうちに食べてしまうと「茹でエビ=ダメな握り」と刷り込まれてしまう。もったいないことだ。

 

茹でた車海老はほんのりとした甘みの他にコクというか香ばしい旨味に満ちている。丁寧に仕込んでいる店の海老握りは日本食の奥深さを感じられる一品だと思う。

 





 

若い頃、北海道を旅した時に確か札幌で入ったお寿司屋さんで海老をめぐって不快な思いをしたことがある。

 

東京人としては「海老の握りください」といえば茹でたタネの寿司が出てくると思うのが普通だが、その時は甘エビが出てきた。

 

仕方なくそれを食べてから「次は普通の海老を」と注文した。すると店の大将が「今のが普通のエビだよ」と返してきた。

 

しかたなく「茹でたヤツを・・・」と言い直したら「なんだそれ、そんなもん無いよ」と小馬鹿にされてしまった。

 

30年以上前の話だ。若かった私はショボンとしてしまったが、今だったら四の五の言い返してドタバタしたかもしれない。

 

まあ、北海道と東京では寿司の流儀が違うわけだから、そんな場所でわざわざ茹で海老を頼もうとした私に問題があったわけだ。

 

でも、あれから30年以上が経って少しは寿司のウンチクが分かるようになったから、あの時の寿司屋のオヤジに茹でた車海老のウマ~い寿司のウンチクでもしっかり語りたいと思う。


寿司に限らず、日本料理の世界では海老は縁起モノである。曲がった腰やヒゲが長寿を表すという意味で大事にされてきた。

 

他にも何度も脱皮を繰り返すことから「再生」のシンボルという見方もある。目が飛び出ているから「目出たい」という意味合いもあるらしい。

 

寿司屋で食べる茹で海老は色合いも鮮やかなのが良い。確かに何となくメデタイ感じに見える。

 

どう転んでもオッサンまっしぐらな私である。海老のめでたさにあやかった方がいいから、これからも茹で海老の握りをバンバン食べようと思う。

2 件のコメント:

  1. 謎エビ・・・相変わらず富豪様のネーミングは抜群です。本当にあれは、謎だらけの寿司ネタです。今までのモヤモヤ感を一言で言い表してくれました。

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  2. コメントありがとうございます!
    恐縮です。
    あれは謎エビとしか言いようがないですよね(笑)。
    茹で海老の地位を怪しくしていると思います。

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