2022年10月26日水曜日

末げん 東京の味


先日、初訪問の店でウマい鳥鍋を食べた。最近は見知った店ばかり通っていたから新鮮な気分で楽しめた。場所は新橋。大衆的な店ばかりのこの街で異彩を放つ老舗の料理屋さんだ。

 

かの三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊基地で大暴れして自決する前に最後の晩餐に選んだ店として有名な「末げん」という鳥鍋がウリの店である。

 

場所は新橋のカオスを象徴する聖地・ニュー新橋ビルの向かいだ。ニュー新橋ビルにある「豚大学」の豚丼(大)を食べるほうが間違いなく私の満足感は高いのだが、いっぱしのベテラン中年男としてはしっぽりとした食事もこなさないといけない。

 



 豚丼の画像を載せてしまったが、食べたのはもちろん鶏肉である。鳥鍋といえば野菜がいっさい入っていない新宿・玄海の水炊きが最高なのだが、いっぱしのベテラン中年男(しつこい)としては野菜が入った鍋も美味しそうに食べないといけない。

 

「末げん」の存在は昔から知ってはいたのだが、入るのは初めてだ。鳥鍋と聞いてもとくにピンと来なかったのがその理由だが、実際に食べてみたら個性的なその味にしっかり魅了された。

 



コース仕立てなのであれこれ出てきたが、鳥刺しも美味しく、その他の料理も全体に東京風のしっかりした味付けで私好みだった。

 

肝心の鳥鍋はすべて仲居さんが仕切ってくれてこちらはノンビリと酒を飲みながら待っていれば済む。醤油ダシ、ポン酢と取り分けるたびに変化をつけてくれるので飽きない。

 





鶏肉もウマい、鴨肉もウマい、とくに印象的だったのがつみれだ。鴨肉も混ざっているせいでコクのある味わいが楽しめる。ポン酢も醤油ダシも甲乙つけがたい。野菜も美味しく食べてしまった。

 

さっきまで豚大学の豚丼のことばかり考えていた自分の愚かさを痛感する。こういう老舗ならではの熟練の味はワケ知り顔をしたい私のようなオジサマ族がこっそり楽しむべきものである。

 

鍋料理は「なんとなく美味しい」というのが常だが、ここの鍋は「しっかり美味しい」と表現したくなる味だった。何となく元気も出た。とはいえ、これを原動力に自衛隊基地に乗り込もうとは思わないが。

 

鶏や鴨のエキスをまとったシメの雑炊が物凄く美味しいのは当然だが、この日は店の名物である親子丼も別に注文してみた。本来は昼の人気メニューらしい。

 


 

この店の親子丼の特徴は挽肉を使っている点だ。鍋で堪能したウマいつみれと同じ挽肉である。東京風のしっかり濃い目の味付けの挽肉が玉子でとじられている。文句なしにウマい。

 

この歳になるとなかなか初体験の食べ物に遭遇することがないのが残念なのだが、この親子丼は初モノの感激を味わえた。普段は朝と夜の2食生活の私だが、ランチにわざわざ食べに来たいと思えた美味しさだった。

 

トータルで感じたのは「東京っぽい味」だということ。ここ20年ぐらいの間にすっかり関西風の食べ物に席巻されてしまったのが東京の外食事情だと思う。

 

まあ、率直に言ってそっちのほうがウマいからウマくないほうが駆逐されてしまうという側面もある。でも昭和人の成れの果てである私としては昔懐かしい味が時々恋しくなる。

 

東京のうどんは真っ黒の汁にぶよぶよの麺が定番だった。箸で持ち上げたら切れちゃうようなうどんもあれはあれで趣があった。多くの料理が濃い口醤油タップリの黒さと、時にダシという大事な概念を忘れた砂糖ドッサリみたいな味付けだった気がする。

 

もちろん、この日の鳥鍋コースがそんなガサツな味だったという意味ではない。全体にハッキリした東京風の味付けだったが、丁寧に料理された逸品ばかりだった。

 

見知った店に出かけて安定の味を求めるのも間違いがないが、時々は入ったことのない店で斬新な食べ物を味わう時間は大事だ。眠っていたアンテナが反応し始めるような面白さがある。

 

なんだか大袈裟なまとめかただが、年々開拓精神がなくなっている自分の退屈な感じを反省する良い機会になった。

 

 

 

 

 

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