自宅から徒歩2分ぐらいの場所にある「躍金楼」という割烹がある。「てっきんろう」と読む。いかにも由緒ありそうな黒塀の建物がオジサマの好奇心をくすぐる。
引っ越してすぐの頃から散歩するたびに気になっていたのだが、このブログの読者さんからも勧められたこともあり、ふらっと訪ねてみた。
お座敷用の正面玄関とは別に「すたんど」と名付けられたカウンター割烹の入口の先には、イメージ通りのオジ好みの世界が広がっていた。
初めて入った時は感動した。大げさに言えば私が長年思い描いていた“オジの殿堂”である。
まさに「たどり着いた」という表現が的確だろう。物腰の柔らかい店主がいて、着物姿の女将がいる。おまけに絵に描いたような大女将までいる。
年季の入った店だけが醸し出すホンモノ感に満ちあふれている。重厚感があるだけじゃなく、昔の花街を思い起こさせる小粋な風情も漂う。
レトロなどという言葉では言い表せない奥深さがある。伝統文化の中に身を置いている感覚とでも言おうか。
「琴線に触れる」という日本語はこの時のためにあったのかと言っちゃうぐらい私の気分はアゲアゲモードになってしまった。
居心地がまた良い。肩が凝っちゃう重苦しい雰囲気は無い。若者だったら緊張するだろうが、オジオバであれば誰もが快適に過ごせるはずだ。
聞けば140年の歴史があるそうだ。おまけに山岡鉄舟が名付け親だとか。そういう背景みたいな部分にもオジとしては萌える。
新富町界隈はその昔の花街で、最盛期には芸妓置屋が数十軒もあったという。今は中型オフィスビルやマンションだらけだが、この店にはいにしえの街のDNAが息づいている感じだ。
コース料理以外にアラカルトのメニューも揃っていて、気軽な晩酌にだって使える感じだ。画像は穴子の姿煮とウニ。
別な日に訪ねた際に食べた豚の角煮がまた絶品だった。長時間煮ることで脂がしっかり落ちているから、まさにオジ向け。
どの料理も昔ながらの東京の味だ。東京人としてはその点も嬉しい。値段についても銀座あたりの気取った寿司屋や料理屋よりも手軽だ。
コースで食べるのも間違いなさそうだが、その日の気分でいくつかの料理を選んで、後半は天ぷらを数点もらうパターンが私の定番になりそうだ。
天ぷらにはかなりのこだわりがあるようで、実際、天ぷら専門店と言えるぐらいのレベルだ。これもまた関東風で、天つゆと一緒に味わう王道のスタイルである。
まあ、究極のオジ好みの店に出会ってしまったから何をどう書いても美辞麗句ばかりになってしまう。
こういう店の空気感を快適に思える年齢になったことが感慨深い。「青春まっ盛り」ならぬ「オジまっ盛り」である。
生まれ変わっても最初からオジでありたいと真剣に思う。
自宅から歩いてすぐの場所にオアシスを見つけたわけだから、この上ない幸せだ。
でも、私のエンゲル係数や健康寿命は今後どのように迷走していくのかが大きな問題である。