2020年3月23日月曜日

肉の脂身


ここ数年、赤身肉の美味しさが見直されているのは良い風潮だと思う。私が若者だった頃は霜降り肉こそ御馳走で、赤身肉の地位はかなり低かった。

年齢とともに霜降り肉がクドく感じるのは当たり前だが、昔の大人達は頑張って霜降り肉と戦っていたのだろう。



いまも接待の場などでは“霜降り神話”のせいで、厄介な事態になることは珍しくない。

しゃぶしゃぶやすき焼きの店に行けば、上位メニューは霜降り肉である。赤身肉はお手頃価格でメニューの下の方に書かれている。

接待する際も、される際もその店のメニューの下位のものは選ばない。そんな世間のマナーというか、くだらない見栄のせいで、誰も嬉しくないのに霜降り肉がデーンと登場し、皆が内心でゲンナリする。

接待の場に限らず、デートの時も同じ。つまらない見栄のせいで、上位メニューを頼みがちだ。

赤身のほうがハッピーなのに、下位メニューを頼むと、デート相手にケチケチ野郎だと思われそうで、ついつい霜降りを頼んでしまう。

“焼肉屋さんあるある”も同じ。普通のカルビと上カルビ、特選カルビといった三段階用意されているとする。間違いなく高い方が脂っぽい。

ロースやタンも同じ。さっぱり食べたいから注文しているのに、特上なんかを頼んじゃうとベチャっとした脂っぽい肉が出てくる。



見栄を張れば張るほど脂まみれになる仕組みだ。

私自身、かなり見栄っ張りだ。「シミッたれた野郎だ」「シケた奴だ」と思われるのはチンチ○出しで皇居一周マラソンをするぐらい恥ずかしい。

そのせいで、若い人と焼肉屋に行っても、ついつい「上」「特選」といった肉を頼んでしまう。で、自分では食べない。バカみたいだ。

子供の頃は、すき焼き鍋に塗りたくるアノ真っ白な牛脂まで喜んで食べたのに、今は脂っぽい肉にめっきり弱くなってしまった。

さて、実はここまでは前振りだ。今日の本題はトンカツの脂である。

さんざん書いたように牛の脂っぽい感じが苦手でも、豚肉に関しては脂身も好きだ。豚しゃぶだったら脂身の多いバラ肉を好むぐらいだ。

トンカツに関しては元々ヒレカツ派だったのだが、ここ最近はロース派に宗旨替えしていた。

BSでも放送されていた「東京とんかつ会議」で、評価の基準をロースカツに絞っていたことに影響されたせいもある。

それに加えて、私がほぼ毎回トンカツに合わせる芋焼酎のロックに豚の脂身が実によく合うことも理由だ。

ところが、先週月曜にここで書いた銀座三越内のトンカツに引き続き、新たに開拓に行った人気店でもロースカツがクドくて困ってしまった。

訪ねたのは人形町にある人気店「かつ好」。モダン民芸風の洒落た構えのお店だ。初めての時は最上級の一品を食べるようにしているので、数多くあるメニューの中から「別格ロース」を注文した。

トンカツが来るまで、ナンコツからあげとエビフライ1本をツマミにビールをグビグビ。芋焼酎に切り替えたタイミングで別格ロースカツがやってきた。



揚げかたもバツグンで、衣も正統派で美味しい。さすが人気店が「別格」と名付けるだけのことはある。

と思いきや、脂身が多くて困り始める。加齢のせいですっかりだらしなくなってしまった。

肉の端っこに脂身がくっついているパターンが普通のとんかつ屋さんの普通のロースカツだが、この日食べたのは肉全体に脂身がミックスされている感じ。

先週月曜のブログで書いた銀座「あんず」でもそうだったのだが、こだわりの高級トンカツ店では上等なロース肉を注文するとこういうパターンになることが多いのだろうか。

以前、トンカツの人気店をずいぶんとめぐった頃は、ヒレカツばかり食べていた。ロースには目もくれなかったのだが、あの頃のほうが私の審美眼?というか“ウマいものアンテナ”がキチンと作動していたのかもしれない。

もちろん、若い頃なら喜色満面でムホムホ食べたはずだから、こればかりは店の責任ではない。自分の好みに従って上等なヒレを頼めばよかったわけである。

近いうちに「別格ヒレ」を食べに行かないと気が済まない。

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