2024年9月6日金曜日

サイドメニューの誘惑

 

サイドメニュー。なんとなく心惹かれる言葉だ。昔から食卓にはあれこれと並べたくなるクセがある。大食漢なのか、意地汚いのか卑しいのか、きっと全部当てはまる。

 

居酒屋みたいにいろいろな食べ物を並べてゆったりするのが最高だから、焼肉屋さんに行っても余計なサイドメニューをたくさん頼んで後悔しがちだ。

 



焼肉屋なんだから鮮度の良い生肉を目の前で焼いて食べるのが間違いのない過ごし方だ。分かっちゃいるのだが、メニューに「茹でタン」などを見つけると悩まず注文する。

 

わざわざ用意されているサイドメニューって何だかその店の得意ワザが隠されている気がする。たぶん気のせいだが、そう思いながら注文すると意味もなく得をした気分になる。

 

洋食屋に行ったらエビフライやグラタンやシチュー、オムライスみたいな王道メニューを堪能すれば万事OKなのだが、「ついでの小皿料理」みたいなメニューを見つけると条件反射みたいに注文してしまう。

 



たとえば中央区新川にある洋食屋さん「津々井」では決まって「生ベーコンのカルボナーラ風」という小皿を頼む。サイズ的に手頃だから主役の料理たちの前にチビチビ味わうのが楽しい。

 

鰻屋さんに行っても鰻重、白焼、うざくといった基本形の料理以外に気の利いたツマミを23つ頼みたくなる。強欲なのかワガママなのか、たぶん両方だろう。

 

お寿司屋さんに行っても、刺し身をちょこっと食べてから握りをドシドシ食べればいいのに、ウダウダとサイドメニューに固執する。先日は新富町の「なか山」で珍しくうざくがあったから鰻屋さんで日頃食べているくせにここでも注文。ヘタな鰻屋さんより丁寧な仕上がりで美味しかった。

 



秋になるにつれて通いたい気分になる銀座のおでん屋さん「おぐ羅」でも、決まって注文するのがカツオのタタキとクジラベーコンである。おでんよりもそっちを目的に訪ねている気がする。

 

もともと、おでんは好きではない。20年ぐらい前に「ちょっと高級なおでん専門店でシッポリ飲む姿が絵になるオヤジ」を目指して行き始めたから、正直言うとおでんは二の次である。

 



クジラベーコンはいまや高級品になり、時折気の利いた居酒屋で見つけても満足の行く一品に出会うことがない。味の抜けた安っぽいハムみたいなクジラベーコンにうんざりすると、この店の真っ当なクジラベーコンが欲しくなる。

 

おでん屋、寿司屋あたりだとサイドメニューを頼むのはいわば普通のことだが、やはり焼肉屋だと肝心の焼き肉を二の次にしてしまうことにちょっぴり罪悪感も覚える。

 

若い頃に焼肉は徹底して食べまくったから、きっと一生分のノルマ?はとっくに果たしてしまったのだろう。今では2,3切れの肉を焼けば満足して、サイドメニューに好奇心を集中させてしまう。

 

人形町に「オキデリ」という小洒落た焼肉屋さんがある。なかなか上等な肉を揃えている人気店だ。普通の焼肉メニューも豊富だし、どれもハズレはないが、サイドメニューがまたニクい路線なのが嬉しい。

 



削ったチーズのせいで中身がよく見えない画像だが、「おつまみビーフシチュー」という逸品である。ご飯に合わせたくなる味付けではなく、サワーやハイボールにこそお似合いの味だ。正直、これを3つぐらい頼んで黙々と酒を飲んでいたほうが個人的には幸せなような気もする。

 



ユッケも味付けが丁寧で、やはりこれを2つぐらい頼んで一人で抱えて酒のアテにしたら最高だろうと思っている。要するに焼肉は知らん顔してビーフシチューとユッケがあれば満足しちゃうぐらい美味しい。

 

焼きたての肉をタレにつけて白米にバウンドさせて食べるのが焼肉屋メシの王道であることは百も承知だ。でもこの店のようにサイドメニューに「温玉のせ牛すじ丼」なんかを見つけてしまうとそっちが無性に食べたくなる。

 



上等かつ鮮度の良い生肉を焼いて食べるべき場所なのに、そっちには目もくれず、余りの?スジ肉を駆使した丼メシに嬉々とするのはヘンテコかもしれない。でもそんなアマノジャクこそ外食の面白みだとも言える。

 

スジ肉といえば焼肉屋さんに置いてある肉の中でランク的には下位の食べ物である。でもそれが妙に美味しく感じちゃうのも事実だ。これが長年にわたって安い肉を使った牛丼屋に洗脳されてきた私の味覚の現実なのかもしれない。でもウマいんだからしょうがない。

 

 

 

 

 

 

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