2013年2月6日水曜日

銀座 おかやす 止まり木


「止まり木」。なんとなく好きな響きだ。

鳥が羽を休める安息の場所。どこかホッコリする言葉だ。一人静かに晩酌を楽しみたい時には、いつもこの言葉を思い出す。

こじんまりした空間が前提だ。肩肘張らずにくつろげて、かといってガサツな空気とも違う適度な落着き感が大事だ。

こねくり回したような料理ではなく、わかりやすいウマい肴が揃っていて、温和な表情の板前さんが静かに包丁と対峙する。

ついでに言えば、和服姿の小綺麗なおかみさんが、どうでもいい世間話に上手に付き合ってくれる。

そんな店なら完璧である。

そんな店はなかなか無い。

でも探せばある。

時々顔を出す銀座の「おかやす」は私にとってそんなイメージを満たしてくれる店だ。

職場が近かったら頻繁に通うはずだが、たまにしか行く機会がない。

カウンターが8席ほど。その後ろに隠れるように小さめのテーブル席が2つ。カウンターの中では柔和な表情の板さんが黙々とウマいものをこしらえる。

着物姿のおかみさんが、止まり木で緩んでいる客を甲斐甲斐しく面倒見たり、適度にあしらったり、忙しく立ち回る。

心地よい空間だと思う。

7丁目の古い雑居ビルの5階という立地も良い。一見サンの若者軍団がどやどや入ってくることもないし、大人数の客が通りすがりに来ることもない。

かといって敷居が高いわけでもない。入ってしまえば至極普通にのんびり過ごせる。

酒の品揃えが凄いとか、奇をてらった名物料理があるわけでもない。ただ普通に美味しい酒があって、正しく美味しい肴が揃っている。大人の男にとって実に使い勝手がいい。


刺身や焼物など一般的な料理の他に、オッと思わせてくれるメニューもある。以前食べたビーフシチューが老舗洋食屋も真っ青なほどウマかったので、先日も常連ヅラして頼んでみた。

残念ながらその手のメニューは季節ごとに変えているそうで、この日はロールキャベツが出てきた。

これがまたお世辞抜きにウマかった。トマトを使ったベシャメルソースとでも言えばよいのか、そんな感じのしっかりコクのあるソースがたっぷり。

キャベツに巻かれている肉の量がこれまたハンバーグ並みにボリューム感があって野菜が脇役みたいだったのが個人的には嬉しかった。

イマドキの小洒落たおでん屋のロールキャベツなんて、中味の肉が鼻くそサイズ、いやネズミの糞ぐらいのサイズだったりするから、その点、この店の誠実さは大いに誉めまくりたい。

レギュラーメニューにもいくつもウマいものはあるが、貴重なのがメザシの干物だろう。

「銀座でメザシ」。実に風流だ。なんとなく「通」みたいで良い。日本中の高価な珍しい食材が揃う街でメザシに喜ぶ。こういうのがカッコイイことだと思う。極めて個人的意見でスイマセン!

その昔、昭和の後半、中曽根さんが活躍していた頃、経済界のドン・土光さんの好物がメザシだということが、NHKスペシャルか何かで全国に広まり、メザシには質素倹約のシンボルみたいなイメージがついて回るようになった。

土光さんのエピソードも実は裏話があるらしい。あのメザシは簡単には手に入らない「日本で一番の最高級メザシ」だったという説だ。真偽はわからないが、さもありなんである。まあ、メザシに限らず一般的には安価な食べ物でも、上物になると大層ウマいのが実態だ。

この店のメザシも、さすがに「銀座でメザシ」だ。当然だが、近所のスーパーのそれとはまるで違う。最上級かどうかは知らないが、脂のノリや味わいも奥深く、普段メザシを食べない私でもムシャムシャニッコリぺろりと食べる。


この店のカウンターに陣取って、ちろりで湯煎する燗酒をチビチビやりながら過ごしていると、どことなく肩の力が抜けていく感じがする。疲れが取れたような気分になる。こういう空間は得難いし、有難い。

実に有難いのだが、疲れが取れると、エンジン全開になってしまうから困る。店を出て気がつくとそこは夜の銀座である。「パトロール」、「檀家まわり」に精を出すハメになってしまうのが問題ではある。

上の画像は、燗酒用に評判がよい銘柄だそうだ。確かにグビグビ飲めてしまった。有名か否かは酒の味にさほど関係ないとつくづく思う。

以前、お燗酒に適した日本酒のコンテストで一位になった銘柄を何度か飲んだが、こちらのほうが飽きずに楽しめた。画像を見ているだけでヨダレが出てくる。

さてさて、まだまだ寒さは続く。ウマい料理とウマい燗酒と、居心地の良いこの店に暖めてもらいに行かねばなるまい。

そうは言っても、最近結構混んでるようなので、こんなところで誉め讃えてしまうと私が座れる場所が無くなりそうだ。

これを読んだ人はゼヒ内緒にして欲しい。

だったらどうして書いちゃうんだろう。。。

2 件のコメント:

ゆう さんのコメント...


男ってこういう場所、男の隠れ家的場所が
必要ですよねっていうか必ずいりますよね

そのような場所を持っている貴兄はうらやましいです

今のところこれだって言う店をもたない私です

今千葉市内に住んでいますがこれからいい店の
情報が入るようでしたら話題にいれてください

今年もよき文体を楽しませてもらいます

富豪記者 さんのコメント...

ゆう様

隠れ家的な店ってなぜだか必要ですよね。

誰からも隠れる必要もないのに不思議です。

やはり、仕事とプライベートの間に一線を画すワンクッションが欲しいのかもしれません。