20年前、娘が生まれた時に記念の品をアレコレと調達したのだが、一番思い入れがあったのが泡盛の甕だ。
成人したら一緒に飲もうと考え、熟成に良さそうな容器に入っている泡盛を探した。器好きの私としてはガラス瓶のまま保管するのは面白くない。
忠孝酒造というメーカーが焼き締めの甕を独自に作っていると知り、娘の名前を彫り込んだ一升甕を二つ発注した。
せっかちな性分だから一つは10年で開封したが、もう一つはしっかり20年間寝かせた。釉薬を使わない焼き締めの器は熟成を手助けする効能がある。
発注した段階で5年モノの古酒を入れてあるので、都合25年モノの泡盛である。10年前に先に開けたほうも充分にまろやかで美味しかったが、はたして25年モノはどんな味がするのかずっと楽しみにしていた。
先日、娘が二十歳の誕生日を迎えた。泡盛開封の日だ。何とも感慨深い。前日の夜に仕舞い込んであった納戸から引っ張り出した際に不覚にも涙がこぼれた。親バカである。
そして開栓の時、20年の出来事がいくつも頭をよぎった。過ぎてしまえばアッと言う間だが、そりゃあいろいろな出来事があった。その全ての時間をこの甕は静かに待っていたわけだ。
発注した甕が届いた20年前のあの日、さまざまなことを考えた。20年後に果たしてオレは元気でいるのだろうか、成人した娘はどんな顔をしているのだろうか、20年後に親娘はどんな関係性を築いているのだろうか等々。
嫌われちゃって一緒に杯を交わすことが出来なかったらどうしよう、20年経つ前に地震で割れちゃったらどうしようなどと、ついネガティブなことも頭をよぎった。
そして20年が経った。私自身しっかり元気で過ごしている。娘との関係は良好だ。顔だって私にソックリに育ってくれた。
何とも幸せな話である。ハタからみれば別に珍しくもないことだろうが、私にとっては普通のことだと片付けることは出来ない。
親になり、子が育って一緒に酒を飲み交わす。人生におけるめでたいことのトップレベルの出来事だと感じる。
やたらと感激した。元嫁や息子も一緒にワイワイガヤガヤと祝った席だから涙こそ流さなかったが、心の中では嬉し泣きの大雨がふっていた。
泡盛の味はもちろんウマかった。いや、もし腐っていたって美味しく感じたはずだ。もちろん腐ってはおらず、超絶に熟成は進み、泡盛らしいクセを感じないほどまろやかに変化していた。
10年前に開けたほうと比べてまったく違う味だった。43度の強さなのに水割りにすると頼りない感じで、ロックで味わうのが最適な仕上がりだった。
この日、甕とは別に後生大事にしているぐい吞みも使ってみた。これも娘が生まれた時に記念に購入した。我がぐい飲み収集歴の中でも圧倒的に高価な一品だ。
鉄絵の技法で人間国宝になった今は亡き清水卯一さんの器だ。蓬莱釉という独特の柔らかい雰囲気の釉薬を用いた優しい風情の作品である。
わが家のぐい飲み陳列棚にこの盃は置いていない。箱にしまって大切にしている。前回使ったのはたぶん娘の10才の誕生日だったと思う。
人に物語があるように器にも物語がある。これまでゆうに100個以上はぐい飲みを手にしてきた私だが、この盃だけは特別強い思い入れがある。
喜びに浸りながら20年間の時の流れを思う。私にとっては30代半ばから50代半ばという人生にとって中心的な時間である。
嬉しいこと、哀しいこと、楽しいこと、辛かったこと、すべてが今の自分を形作る元になっている。すべての事柄が無駄ではなかったのだろう。この日、それこそ“言葉にならない”という感覚で過ごした。
育ってくれた娘に感謝である。親にさせてもらったことが何より有難い。開封した泡盛は今後は娘の誕生日のたびにチビチビ味わおうと思う。
4 件のコメント:
富豪記者殿
おめでとうございます。万感の思いがあったことが溢れていて、読んでいて私も胸が熱くなりました。
実は私の次女も同じ20歳を今月迎えました。しかし理由が不明ながら一方的に交流は切られてしまったので、残念ながら父親として目の前で成長を喜ぶことは叶いませんでしたけど、会えないなりに祝意の気持ちを空に向かって送っていました。その心は彼女自身の成長も勿論ですが、書かれているように親にさせてもらった感謝の気持ちでもあります。このような気持ちを味わせてくれただけで会ってくれなくても嬉しいのですから富豪記者度殿の感慨と喜びはさぞ大きかったものと思います。
改めてこの佳き日に心からお祝い申し上げます。
道草人生さま
コメントありがとうございます。
お嬢様のご成人、おめでとうございます。ご事情はおありでも無事にお育ちになられたことは何よりおめでたいことで感慨深いですよね。
我々も残りの時間がどんどん短くなっていますので、自分の幸せと充実をしっかり見つめて行きたいですね!
おめでとうございます。時の流れに器が絡んでくるところが富豪様らしく、さらに10年で一つは飲んでいるところ、さらに言えば二つ発注しているところが、最高です。
コメントありがとうございます!
はい、性格として20年も待てないと確信して二つ発注して正解でした!
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