昨年の秋の血液検査では尿酸値をはじめ、たいていの項目が基準値を上回っていた。アウト判定だ。冬を前にそんな現実を突きつけられるのは悪いことではない。
冬は珍味が百花繚乱だ。日々、珍味摂取を続ければ身体に毒である。秋の段階で「ダメダメ判定」をくらえば、少しは気をつけるわけだ。
というわけで、このところ例年の冬よりは珍味摂取が少ない。困ったことだが、それはそれで、いざ食べる時のウマさや幸福感が増すから悪くない。
この写真は、銀座のお寿司屋さん「九谷」で食べた珍味寿司だ。叩いたカワハギの肝にトビコがまぶしてある。官能的な味わい、「壇蜜」のような味わいだった。
こちらのお店、そんなに頻繁に訪れるわけではないが、いつでも一風変わったツマミ類が食べられるので、珍味気分の時の恰好の止まり木になる。
このブログでも過去に何度かこの店の珍味を賞賛した。聞くところによると、それを読んだ人がお客さんとしてやってくることがあるらしい。握りをひとつも食べずに珍味だけ楽しんで帰った人もいたとか。
「富豪記者ブログ」もなかなか大したもんだ。
さて、オレンジ色の憎いヤツは東京ではまず出回っていない「イバラガニの内子」。受精前の卵子である。それを塩漬けで味わう珍味界のスーパースターである。その希少性は、ひばりか裕次郎か、はたまた、ちあきなおみが、いま目の前で歌うぐらい有難いことである。
毛ガニのほぐし身に少しトッピングしても「壇蜜」のような味わいだし、酒のツマミに最適だ。つくづくイバラガニが多く生息する北方領土を一日も早く返還して欲しい。
さてさて、この時期、和食系のどんな店に行っても「タラの白子」ばかり出てくる。有難いし、嬉しいのだが、あんなものを連日食べていたら死期を早めるだけなので、なるべく控えるようにしている。
そんななか、ある日、無性に食べたくなって上等な白子をフライにしてもらった。高田馬場の鮨源でのわがままオーダーだ。クリームコロッケのような雰囲気に仕上がるが、クリームコロッケよりも「濃い」。サクッとした食感の後にコッテリと白子の旨味が広がる。まさに「壇蜜」のような味わいだ(食ったことないが・・・)。
ウスターソースをちょろっと付けて味わう。官能的過ぎる。タルタルソースも相性がよい。白子としても、まさか自分がウスターソースと混ぜ合わされるなどとは夢にも思っていなかったはずだ。
冬の珍味といえば数々あれど、ボラの卵を物凄い手間をかけて変身させるカラスミを忘れてはならない。
今年も、母校の先輩であり、「築地のスター」である生田よしかつさんお手製の極上カラスミを入手させてもらった。
お世辞抜きにヘタな飲食店の自家製カラスミより数段ウマい。これさえあれば延々と酒が飲める。冬の宝物である。
とはいえ、ワケあって一人暮らしをしている昨今、チマチマ食べていても一向に減らない。というわけで、もったいないことを承知で「カラスミパスタ」を作ってみた。
オリーブオイル、塩、コショウ、ガーリック、鷹の爪に加えて、市販のチリガーリックパウダー、みじん切りパセリなんかを使ってオイル系ソースをちゃっちゃと作って準備。
カラスミは結構な分量を大根おろし器でパラパラにして、アルデンテに茹でた麺とあえて出来上がり。贅沢パスタの完成だ。
初めて作ったのだが、素材の良さのせいでアホみたいにウマい。我ながら料理の才能があると勘違いしそうなほどの出来映えだった。
つくづく写真を撮らなかったことが悔やまれる。そのぐらい真剣に作って真剣に食べてしまった。
ボラになるために生まれた何万、何百万単位の卵達はいとも簡単に私の胃袋に収まってしまった。あの卵達も、まさか自分達が鷹の爪とかオリーブオイルなんかとぐちゃぐちゃにされるとは夢にも思わなかったに違いない。
冥福を祈る。
私の体内に摂取された珍味達の怨念によって私の身体がどのように攻撃されているのだろう。春になったら血液検査に行こうと思う。
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