最近、立て続けに老舗寿司屋を「探検」する機会があった。場所はディープな街・大塚。かつての三業地があった名残の路地に構えるお寿司屋さん。
駅から近い場所にある「鮨勝」とそこから数百メートル先にある「高勢」の2軒だ。
いにしえの花街の影響もあってか、いずれの店も昔ながらの仕事をしたお寿司をウリにしていることで知る人ぞ知る店。
5年ほど前、渋い飲み屋を求めて大塚界隈をさまよった時期がある。「居酒屋マニア」の間では有名な店が点在する街だから、有名店に限らず個人経営の小粋な店がいくつもある。
お隣の池袋がイマドキの大型チェーン店っぽい飲み屋ばかりなのに対して大塚は昔ながらのシッポリした店が多い。オヤジにとってはオアシスのような街である。
大塚散策に凝っていた頃から、この2軒の寿司屋の存在は知っていたのだが、実際に訪ねたことはなかった。今回立て続けに行ってみて、つくづく「寿司屋の値段は空気の値段」だと思った。
もはや「銀座鮨」なる表現があるほど、銀座や西麻布界隈の「ウン万円寿司屋」はひとつのジャンルとして定着している。
店の良し悪しはさまざまだが、あれはあれでアリだろう。凛とした店の設え、気の効いた酒肴があれこれ出てきて、妙にちっこい握りをチロチロ食べてうなずく世界だ。
あの空気の中に身を置くこと自体が既に楽しみの一部でもあるわけだから、そうしたジャンルに属さない「街場鮨」よりも値段が高くなるのは仕方ない。
コストパフォーマンスが良いとか悪いとか、グルメサイトに必死で書き込んでいる人がいるが、そういう部分に敏感な人は行かなければいい話だ。「お勘定」は必ずしも食べたモノだけでは計れない。
そんなことを書きたくなるほど、大塚の2軒は印象的だった。特別安くはないが、目ん玉が飛び出るようなお勘定になる心配はない。それでも、実に真っ当な寿司を食べさせる。ヘタな銀座鮨よりもよっぽど正統派かつ熟練の味が堪能できた。
万人受けしそうなのが「高勢」。マニアックな人向けなのが「鮨勝」。それぞれ個性的で鮨が大好きな人なら素直に楽しいと思う。
どちらの店も鯖やコハダといった〆モノ系が実にウマかった。正統派ならではのワザだろう。
「高勢」では、お茶っ葉をまぶしながら塩焼きにしたカマス、鷹の爪でピリ辛にした醤油漬けの白子、蕎麦つゆ風味の煮タコ、キンキの肝を軽く煮たヤツ等々で熱燗をグビグビ。
うーん、書いているだけでヨダレが出てくる。握りで食べたカツオや鯖はカラシをうまく使ってひと味違う雰囲気に仕上がっていた。
ガリのウマさも印象的だった。一般的な薄くスライスしてあるものではなく、ブツ切り状態で出てくるのだが、味がキツ過ぎるわけでもなく、そのまま酒のツマミになるような感じだった。
さて「鮨勝」。こちらは物凄くディープな店だと思う。ひと言で店の雰囲気を表現するなら「どうすればここまで古めかしいままでいられるのか」に尽きる。
40年ほど改装もしていないそうで、決して汚いわけではないのだが、昭和40年代にタイムスリップした感じだ。
煮タコを頼んだら煮汁が煮こごり状態になった部分を多めに出してくれた。甘じょっぱくて熱燗が進む。自家製の塩ウニも北海道土産の練りウニあたりとは一線を画した大人の味、イカをアワビの肝と和えた一品やシャコをつまみにグビグビ。うっとりだ。
握りでは煮蛤、小鯛の昆布絞め、シメサバ、味の濃いカジキ、本マグロの赤身なんかがウマかった。
店主は気むずかしいタイプかと思いきや、単におとなしそうな御仁のようで、話してみれば柔らかい雰囲気で相手をしてくれる。
威勢の良さとか適度に凛とした雰囲気という意味では「高勢」、「鮨勝」のほうはヌルい雰囲気、ちょっとドヨンとした感じ。変な表現だが、「快適にわびしく過ごせる店」といったところか。
それにしても、この手の店がぽつぽつ存在している大塚という街の不思議な感じが興味深い。割烹、小料理等々、小粋な暖簾を下げた渋い店がいくつもあるから、この冬はまたさまようことになりそうだ。
2 件のコメント:
大塚行ってみたくなりました。
最新刊のenーtaxi扶桑社の
奥祐介さんのエッセイ
わが酒都・大塚 贔屓番付を
読んだばかりだったので。
いつもブログ楽しみにしています。
一愛読者より
コメントありがとうございます。
enーtaxi、大塚の酒場の話、ぜひ読んでみたいと思います。
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