2024年12月25日水曜日

東京と船


唐突だが、東京の水上交通の未発達ぶりが実に惜しい。江戸の頃には大川と呼ばれて都市機能の大動脈だったのが隅田川だ。中央区民になって以来、私にとって隅田川が身近になったせいで“宝の持ち腐れ”状態を実感するようになった。

 

我が人生の前半、中盤は杉並区、新宿区、豊島区、文京区が拠点だった。そちら方面だと隅田川には縁がないが、台東区、墨田区、江東区、中央区、港区、北区、品川区、足立区、葛飾区あたりだと隅田川は気軽に訪れられる水場だ。

 

川沿いは遊歩道が整備され散歩するには快適だが、水上交通という点ではまるで活かされていない。もったいない話だ。浅草からお台場方面までは申し訳程度に水上バスが出ているが、それにしても便数は限られており生活密着型と言うには程遠い。

 

観光遊覧コースみたいな使われ方もしているが、今ひとつマイナーな存在だろう。パリのセーヌ川だってバンコクのチャオプラヤー川だって隅田川に比べれば、観光や市民の足としてバンバン利用されている。

 

東京はどの国よりも遥かに人口の多い過密都市なのに隅田川を中心とした水上交通がまるで未発達なのが不思議だ。聞くところによると複雑な利権や魑魅魍魎の絡みがあるせいで低利用にとどまっているそうだ。

 

いずれ都知事選の争点になるぐらいに盛り上がってくれることを願う。間違いなく東京での動き方に革命的な変化が生じると思う。

 


 

と、小難しい話を書き始めたのは、先日、用もないのにプチ船旅気分を味わったからである。最近始まった「船旅通勤」というフレコミの小型船でのプチクルーズに乗ってみた。

 

日本橋の真下の船着き場から豊洲までを20分弱で結ぶコースだ。10人ちょっとも乗れば満員の小型船だが、利用者は少ない。散歩のついでに目に入ったので予約無しで乗ってみた。

 




 

隅田川の本流に入るまでは首都高の下をノロノロ進む。視界がひらけたらズンズン進んでアッという間に豊洲に着いた。全行程をズンズン進んだら10分で着いちゃうぐらいの近さだった。

 

豊洲の巨大モール・ららぽーと前の船着き場で降ろされたので用もないのにららぽーとを散策、1時間後に出る戻りの船に乗りたかったので軽く散策した後はフードコートで夕飯を食べた。

 



同行者は娘だ。最初は近所でジャンクフードでも食べようというノリで散歩に出たからそれっぽい食べ物を4つも注文。チキン南蛮定食、チャーシュー麺、ローストビーフ丼、牛すじ丼である。この量が我が家の「普通」である。

 

散歩気分で日本橋の家を出ただけだったのに、船のお陰で豊洲が徒歩圏になっていた。これってちょっとビックリである。つくづく今回の船がこのコースの単純往復でしか使われていないことがもったいないと感じた。

 



日本橋の真下にこのぐらいの船は余裕で着けられるわけだから、そこを起点に浅草方面や竹芝方面、はたまたお台場方面あたりまで定期船を運行するのは難しい話ではない。

 

それぞれ両国や築地、箱崎、月島、浜離宮、清澄白河、深川、勝どきあたりに停船させれば新たな交通網として便利だし、観光資源としても大いに期待できる。実際、既に船着き場がある場所も多いのでちっとも難しい話ではないと思う。

 

やる気になれば木場や葛西、ディズニーエリアまで結ぶことも可能だろう。浅草とディズニーランドが船でつながっていたらインバウンド需要も爆発しそうだ。

 

そもそも江戸時代は水上交通が基本だった。古地図を見ても「まるでベネチア」状態である。現に私が今住んでいるご近所の町名も堀留町だの小網町、小舟町、蛎殻町など水の都だった名残りを伝えるものが多い。

 

また当時は吉原遊廓へ遊びに行くにも隅田川から今の三ノ輪、山谷あたりを船で経由して向かうのがイキで優雅とみなされていたそうだ。江戸人のほうが今よりもプチクルーズを上手に活用していたわけだ。

 

東京の電車網はそれはそれは細かく張り巡らされている。おまけにバス網も電車を補完するように整備されている。おまけにタクシーも都心部では簡単につかまる。その他にも地域ごとのコミュニティバスも低料金で走っている。

 

地方に比べれば恵まれているのは百も承知だが、大動脈・隅田川とその支流に目を向けないのは摩訶不思議としか言いようがない。

 

その昔、映画「釣りバカ日誌」で会社に遅刻しそうになった西田敏行扮するハマちゃんを釣宿のオヤジ(アパッチけん)が渋々釣り船で送り届けるシーンがあった。そんな使い方はさすがに極端だが、そのぐらい気軽なノリで川が活用されたら楽しい。


利権だか何だか知らないが、せっかくの水の恵みを賢く利用できていない現実は都民にとって大きな損失だ。大胆に都市部の水上交通が進歩することを願う。





 

 

 

 

 

 

 

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