つくづく思うのだが、ウナギを今のスタイルに調理することを考えた人は偉人だと思う。ノーベル賞ものだ。
あのニョロニョロした姿態を喰ってしまおうと思った先人もエラいが、どこまでも美味に仕上げてやろうと研究をしてきた人々は本当に凄い。
ヌルヌルして変な顔のアイツをさばいて、開いて、骨を抜いて蒸したり焼いたり、おまけに例のタレだ。
生きている時の姿からは想像を絶する変貌ぶりだ。ただ単に焼くとか煮るとか、ミンチにするとか、衣を付けて揚げるとか、様々な調理法で食べる日本料理の中でも、あの“変化球”ぶりは画期的だ。
そして抜群にウマい。日本人の叡智の最たるものではなかろうか。あの発想と技術は無形世界遺産だろう。
冷凍パックに入っているウナギだってウマいし、安い弁当屋のウナギだってウマいし、ましてや専門店の手にかかった日にはバンザイ三唱の味だ。
前振りが長くなった。
久しぶりにウナギをわしわしと摂取してきた。日本橋の伊勢定本店。たまに使う店だ。
ホンモノのグルメさんであれば、より通をうならせるような専門店に行くのだろうが、私にも別な意味でこだわりがある。ウナギ以外一切出てこないようなストイック系?の店がちょっと苦手だ。
浅漬けのキュウリとか骨煎餅なんかをポンと出されて1時間も黙って座ってろなんて店は楽しくない。まあ、ホンモノを標榜するには、忙しい厨房で余計な酒肴とか一品料理などにかまけていられないのだろう。
もちろん、それも理屈だが、そうは言っても、夜に酒飲んでホゲホゲしたいオヤジ相手に気の利いたツマミぐらい用意してもよかろう。
100点満点の鰻重を出す店と、鰻重は80点だが、つまみもそこそこ用意してある店だったら、私は迷わず後者を選ぶ。いや70点ぐらいの鰻重でも、酒肴がアレコレあれば、そっちのほうがいい。
だいたい、私基準?というか、私の舌では、70点以上のレベルの鰻重であれば、90点も100点も大差ない。ある一定のレベルを超えていれば、タレの味、白米の炊き加減の好みはあるだろうが、ウナギ気分を十二分に満たしてくれる。
味覚なんて気分で大きく変わる。修行僧みたいな顔して100点満点のウナギを食べたって楽しくない。狭くて汚い店で恐いご主人の顔色を見ながらペコペコ食べるのも最悪だ。
なんか力説してしまった。すいません。
さて、伊勢定の話だった。デパートのレストラン街とかにもチェーン店を出すような大型店ではある。特徴がないと言ってしまえばそれまでだが、逆に適度な安定感はある。それで良し。
老舗の本店だけに、まったりと大人がくつろげる座席も選べる。ウナギでゆるりと一献というパターンには悪くない。
日本酒の品揃えが中々すごい。あれだけあれば選ぶのに苦労することはない。でも、この日は熱燗から始めた。
鯛のワタの塩辛と、妙にウマいしっとりした特製おからでチビチビ。ウナギ様への期待を高めながらウッシッシ。
白焼きが来るタイミングで冷酒に切り替える。相変わらず仲居さんに「口開け間もない酒はどれ?」と迷惑な質問をして、オススメの一杯を飲んだ後は、獺祭の大吟醸で通した。
このブログでも何度も書いてきたが、私にとって、冷酒のツマミナンバー1の座は、ここ20年ぐらいずっとウナギの白焼きで決まりだ。
喧嘩中の相手だろうと憎しみを覚える相手だろうと、生理的にイケ好かない相手だろうと、ウマい白焼きと冷酒を共にする場面があれば、竹馬の友かのような関係になれる気がする。
いま、仕事で裁判をいくつも抱えているから、今度、敵連中とウナギ屋に行ってみようか。すぐ和解だ。いかんいかん、ちゃんと闘わねば!
さて、生わさびをちょこんと載っけて、醤油をちびっと付けた白焼きを頬ばり、白焼きがまだ食道を通過中ぐらいのタイミングで、キリッとした冷酒を流し込む。
悶絶だ。スッポンポンで逆立ちしたくなるような組み合わせと言おうか。この楽しみのために、日頃はゴボウとかピーマンばかり食べている気がする。大ウソです。
肝串も登場。ヘタな店だと、ただ焦げちゃって苦いだけの肝が出てくるが、ここの肝串はモーマンタイ。一度に10串ぐらい食べたら身体がどう変化するのかを想像しながら1本だけ食べた。うっとりした。
小さく切った蒲焼きを玉子焼きで巻いたう巻きもやってきた。冷酒が進む。適度なツマミがあるからこそ、白焼きから鰻重につながっていく至高の時間を飽きずに過ごせる。
そして真打ち登場だ。この店のウナギは蒲焼き、白焼き、鰻重ともに大きさや厚みで6段階ほどラインナップされている。白焼きを一番デカいサイズで頼んだので、鰻重は上から3番目ぐらいのものにしておいた。
お重からシッポがはみ出して、折り返してあるほどのデカさも捨てがたいが、しっかり飲んでつまんだ後だから、このぐらいが適量だ。
ご飯の炊き加減が固めでバッチリだ。タレもやや甘いが無難にウマい。東京のフンワリしたウナギが米とタレとの三重奏で私をノックアウトする。
たとえ、どんなに難しく真面目な話をしている場面でも、ウナギ三昧なら私の脳みそは、ウナギの味覚を五感全てで受け止めるためだけに集中力を発揮する。
俗にカニを食べる時は人は無口になると言うが、私の場合、鰻重を前にした時の方がニンマリ無言でかっこんでいるような気がする。
女性のスカートの中が偶然見えてしまった時のように、抑えようとしても抑えられない変態のような不気味な微笑みがこぼれてしまう。
それがウナギの魔力だ。
それにしても、ヒドいまとめ方だ。失礼しました。
2012年2月10日金曜日
ウナギと変態
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