2017年4月19日水曜日

安いもの 高いもの 成熟社会


高級化か大衆化か。どんなジャンルにおいても商売のターゲットをどの階層に合わせるかは難しい問題だ。

路線設定で迷走すると良い商品だろうと消費者から受け入れてもらえない。安いから売れる一方で高いから売れるものだってある。

10年ほど前のデフレ不況の中、安さこそ正義といった風潮が強まった。あの頃、安値競争に明け暮れたのがファストフード業界だ。

牛丼やハンバーガーが安さばかり競い、結局はメロメロになった。私が大好きな「松屋の牛丼」は今やプレミアム牛丼という名で適価で勝負している。実際に昔より美味しくなった。

100円マックで迷走していたマクドナルドも最近になって「グランマック」なる高級商品を売り出した。


グータラしている週末に「マックデリバリー」を活用する私である。さっそくグランマックシリーズを出前してもらった。

マトモだった。100円マックを全否定するわけではないが、「ハンバーガー」を名乗る以上、やはり多少高くてもマトモな商品もラインナップすべきだろう。

ファストフードに限らず、最近では格安航空会社、いわゆるLCCもサービスの差別化に取り組んでいるらしい。せっかく旅行するのに養鶏場のブロイラーみたいな扱いを受けるのは厳しいから当然の流れだろう。

そういえば、もう10年以上前だったか、JALが国内線のスーパーシートを全廃してヘビーユーザーである大人達から大不評を招いたことがある。

その後、クラスJとやらを設けて巻き返しを図ったが、あれを機会にJALからANAに乗り換えた人は多かった。

確かに安いことは有難いが「安かろう悪かろう」ほど不快なものはない。若者はともかく、そこそこの大人であれば「ちゃんとしたもの」「上質なもの」を求めるのはある意味あたり前のこと。

贅沢ウンヌンではなく、元気ハツラツの若者と年配者では求めるものが違うのだから、はっきりとした区分けとかランク分けは不可欠だと思う。

ちなみに、父娘戦争で話題を集めた大塚家具にしても紛争のきっかけは路線対立である。結果、カジュアル路線、大衆路線に舵をきった現体制の低迷は周知の通りだ。

いま書いてきたような話は、いわば“デフレ後遺症”みたいなものだろう。本当に良いものが極端に安いはずがないのは当たり前のこと。安易な安値競争はすべてにおいて質の低下を招くことにもつながる。

飲食店だって同じだろう。安さだけがウリの居酒屋だとビールだってニセモノだし、鶏のエサみたいな怪しげな食べ物を出してくる。

経済的な理由でそういう店を選ぶのは仕方ないが、あれだったら家飲みのほうが同じ値段でもマトモな酒や肴が楽しめると思う。

安さ一辺倒で質が低下することは、大げさではなくその分野における文化の質も低下することになる。

先日、久しぶりに回転寿司を食べた。テレビでもさかんにCMを流している人気チェーンだ。

ビックリしたのが寿司を握っている人がいないという点。いないというか客からは見えない作りになっている。なんだかロボット工場みたいな印象だ。

目の前に置かれたパネルを指でタッチしながら注文する。回転レーンには席ごとに小窓みたいな開閉口があり、パカッとそこが開いて注文した皿が出てくる仕組み。

システマチックでスピーディーだが実に無機質。軍艦巻きなどは皿が出てくる勢いのせいで結構な頻度で寿司が倒れちゃっている。

ネタによってはちゃんと美味しいからハヤるのも分かる。でも、あれを寿司屋とは言わない。大きなお世話だが、あの世界しか知らない子供が大きくなった時、寿司文化はどうなっちゃうのだろう。

なんだかグチみたいな話になってしまった。

マトモなもの、本当に良いものにしっかり目を向けることは結果的に文化を守ることにもつながる。独自の歴史に彩られたこの国にとっては凄く大事な要素だろう。

世界一の超高齢社会である以上、それを逆に強みと捉えたほうが建設的だ。若さには無い成熟という武器があるのだから、安さばかり追い求めずに質の面に敏感になりたいものだ。

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