2024年6月7日金曜日

ポルトガルに惚れる


ポルトガルに行きたいと思い始めたのはもう15年ぐらい前のことだ。せつない民族音楽「ファド」を聴かせる酒場のことをテレビで見かけたり、あの「火宅の人・檀一雄」が隠棲生活を送った国だと知ったり、ヨーロッパ大陸の最果ての地に行ってみたいと思ったり、様々な理由で行きたい国ナンバー1だった。

 

ただ、ヨーロッパの端っこだから主要都市から乗り継ぐには一番遠い国でもある。モノグサのせいで何となく後回しにしていた。コロナ禍という邪魔も入ったせいでようやく今回初訪問することになった。

 







思い出補正ならぬ憧れ補正のせいもあってか、今まで行ったヨーロッパのどこの都市よりも首都リスボンが気に入った。一気にファンになってしまった。きっと遠からず再訪するのは確実だ。

 

クラシックでレトロな町並みという言葉はヨーロッパ中で聞かれるが、リスボンのそれは一味も二味も違った。坂の多さに苦労するが、それもまた趣がある。細い路地を縫うように走るチンチン電車の風情も素敵だし、アズレージョと呼ばれる色柄ガラスで彩られた建物も独特の魅力があった。

 

気も良かった。漂う気、人々が醸し出す気、これって案外大事な要素だと思う。ちょっとばかり旅をした人間に分かるわけないとも言えるが、ちょっとばかり覗くからこそその部分を敏感に感じ取れるという見方もできる。

 








旅すがら司馬遼太郎の「街道をゆく・南蛮編」を読んでいたのだが、かの司馬先生もポルトガルの人々の感じの良さに触れていたし、どことなく東洋人にも通じる親しみやすさを感じた。

 

なんてったって日本人にとっては西洋文明の先生だった国である。キリスト教伝来しかり、鉄砲伝来しかり、数百年も前にはるばるアナログな船で日本にやってきてアレコレ伝えてくれたわけだから親しみを覚える。

 

カステラやコンペイトウもポルトガルから伝わったそうだし、何と言っても「ありがとう」の語源が「オブリガード」だとする説もかなり信憑性が高いらしい。

 

隣接する超強大国家・スペインを横目に大海原に出ていくしかなかったポルトガル。巨万の富をもたらした大航海時代の頃に未開の国ニッポンにあれこれ伝えたわけだ。ロマンである。

 






長年に及ぶ航海から戻ってくるポルトガル人にとって真っ先に目に入ることで故郷を実感させたというベレンの塔にも行ってみた。司馬遼太郎が貴婦人のようだと評した塔をぼんやり眺めると悠久の歴史を感じられて時が経つのを忘れる感覚になった。

 

近くにあるジェロニモス修道院もとても楽しみにしていたのだが、なぜか今は世界的にポルトガル観光ブームらしく見学希望者の列があり得ない規模で広がっていたから断念。いつか再訪したい。

 

今回は公共交通機関の他、ウーバーの配車を上手く使った旅ができた。ベレンの塔まではリスボン市内から直通バスで行ったのだが、その後、車で小一時間の距離にある「カスカイシュ」というリゾート地まではウーバーを手配した。日本円で3千円ちょっとでそんな距離を移動できたから悪くなかった。

 







勝海舟みたいな響きの「カスカイシュ」は気持ち良いリゾートエリアで真夏になったらどれほど賑わうのだろう。町並みも美しく手軽にバカンス気分が満喫できそうな場所だった。ひと夏をこんな場所で過ごせたら寿命が30年は伸びそうな気がする。

 

つかの間のリゾート気分を味わったらここからバスで小一時間のロカ岬へ。いよいよユーラシア大陸最西端の地である。ちょっとワクワクした。

 

行ってしまえば言うまでもなく単なる岬である。「ここで地終わり海始まる」という私でも書けそうな詩が刻まれた石碑が立っている。何となく「端っこに来たぜ」という気分になる。宗谷岬に行った時と同じような気分になれた。

 





岬をあとにして今度は内陸部の世界遺産の街・シントラにバスで向かう。これまた小一時間の距離だ。山あいに昔の宮殿や悪趣味?な城が点在する人気のエリアである。相変わらず混んでるし坂だらけだからタクシーを活用して効率よく回る。

 

印象的だったのはペーナ宮殿。1900年代初頭まで実際に使われていた城で、なんともケッタイな様子にちょっと感動した。さまざまな建築様式の宝庫と呼ばれているが、悪くいえば統一感ゼロでハチャメチャ。ある意味で支配者の変遷や激動の歴史を物語る貴重な遺産だろう。

 







カスカイシュとシントラの2箇所はリスボン以外に訪れたかった場所なので効率よく堪能できて正解だった。あとはじっくりリスボン市内で過ごすだけである。じっくりと坂や階段だらけの街を歩いた。バテたけど飽きることなく過ごせた。

 

リスボンには4泊したのだが、まったく足りなかった。パリに滞在して余計な散歩などしなければよかったと心底後悔したほどだった。

 








写真や絵が趣味の人だったらどこを切り取っても素材だらけである。運良く暑くもないベストな時期で快晴続きだったからいちいち時間が足りなかった印象がある。散策だけの旅行だと退屈しちゃう時間も意外に多いのだが、今回はまったく退屈しないで済んだ。

 

食べ物もコメがポピュラーだから私には天国だった。リゾット的なもの、パエリア的なものを選んでいれば何も問題はない3〜4枚目の画像のハタとエビのリゾットは絶品だった。リスボンの中心地ロシオ広場のカフェレストラン「ニコラ」での一品。

 







ポルトガルといえばエッグタルトも忘れてはならない。さすがに発祥の地だ。そこかしこに専門店があって気軽にいつでも食べられる。これがまたどこで食べても美味しい。

 

ある朝などは洒落たカフェを併設しているエッグタルト屋でノーマル、チーズクリーム系、クリームブリュレ風の3種類のエッグタルトとカプチーノで甘々な朝食を楽しんだ。今回の旅で一番幸せ朝ご飯だったかもしれない。

 




 

気候のせいか、アルコールはサングリアばかり飲んでいた。赤も白も気分に応じて飲み分けたのだが、口当たりが良いから調子に乗ると割と酔う。一人で1リットル近く飲んだ時はさすがにフラフラした。

 



あーだこーだと書いてきたが、リスボンに行った最大の目的は「ファド酒場で泣いてみる」ことである。せつない民族音楽「ファド」は現地の演歌みたいなものだ。郷愁、憧憬、思慕などを意味する「サウダーデ」を体現する音楽だ。

 

凝り性で物好きな私は結局4夜連続でファド酒場に通った。サウダーデに浸りまくった話は次回に書きます。





 

 

 

 

 

 

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