2012年9月5日水曜日

北の味

北海道の道東エリアへの旅では、ホテルめし、というか旅館めしが中心だったので、地元のうまい魚を出す料理屋さんには、昼1回、夜1回の計2回しか行くことが出来なかった。

旅館めしも悪くないが、大型ホテルのバイキングはビミョーである。楽しいことは楽しいのだが、さすがに唸るほどウマいものには出会わない。

今回もある晩、北海道でも最大規模のバイキングを謳う宿に泊まって、80種類もの品数を揃えるバイキング会場に行った。

80種類だ。凄いスケールだ。座席の上には、何がどこに置いてあるかが分かる料理地図まで置いてある。さすがにワクワクする。

でも、楽しいのは最初の5分ぐらいで、いざ料理を取りに行っても、青い色した不気味な流氷カレーとか、大勢の客がグチャグチャにしちゃった刺身なんかが私の食い気をゲンナリさせる。

いつどこで獲れたか怪しいタラバとズワイの脚も山盛りだ。知床まで来て、冷凍の水っぽいカニなど食べたくないから、10本ぐらい食べただけでやめる。充分か。

鹿肉ハンバーグもマズいし、結局、伸びてしまったミートソーススパゲッティを食べて満腹になった。

30年前なら喜々として全種類食べる勢いだったはずだが、さすがにもう無理だ。一番ウマかったのは、屋台風のスペースで作ってくれたイチゴミルク味のかき氷だった。


知床へ向かう途中の網走市内の人気店に昼に寄った際には、キンキを堪能した。刺身で喜び、アラ汁で納得して、軽く炙った状態のにぎり寿司で満足した。高価な魚になってしまったが、やはり本場の釣りキンキはわざわざ味わいたい逸品だ。

この「花のれん」という店では、キンキを中心に旬の魚介類が豊富で昼間から飲むにも最適な店だ。私が敬愛するタラバの内子はルイベ状で出てきたが、酒のアテにちびちび味わってニコニコできた。



小鉢の中で僅かに残った内子までペロペロ舐めたいところだが、いっぱしのオトナだからそんなことはできない。フレンチのソースをパンに絡め取って食べるように、寿司飯を使って内子の残りを食べ尽くす。最高だ。

話は変わる。

北海道の夏といえば毛ガニだ。カニラバーの私としては、冬の日本海のズワイも好きだが、あれはあれで高すぎるし、毛ガニのミソの魅力が何といっても最高だと思う。「身詰まりの良い生きた毛ガニ中型サイズの茹でたて」に勝るカニはないと勝手に思っているので、今回もそんな逸品を狙ってみた。

知床・ウトロ温泉地区に店を構える「番屋」という料理屋さんの評判が良かったので、ある晩、出かけることにした。

事前に電話して、生きた毛ガニの中型サイズはあるかを確認。色よい返事があったので、ウキウキ出かけた。


予約した時間に遭わせて、まだ温かみの残る毛ガニが登場。ウッシシだ。身も甘いし、ミソもたっぷりだ。イメージ通りの絶品毛ガニだった。


ミソのアップだ。鮮度の良い証拠がこの色合いだ。そのまま舐めても良し、カニの身にトッピングしても良し、ウヒョヒョのヒョだ。

いつのまにか、カニフォークで毛ガニをほじくるのが達人レベルになってしまった私だ。長い時間、幸福な気分が続く。

毛ガニほじほじの楽しさは、もう身が無さそうに見える殻のすき間からボソッと食べ応えのある身を取り出す瞬間に尽きる。得したような、善行を施したような明るい気持ちになる。快感以外の何ものでもない。

耳そうじの最中に意外な大物がゴソッと出てくるようなスペクタルな感じとでも言おうか。とにかく気絶するほど悩ましいのが毛ガニホジホジの時間だ。


カニとランデブーしている合間には、ツマミで頼んだ生ウニとか塩辛を楽しむ。箸休めどころか、箸大忙しである。甲羅に少しだけミソを残しておいて、カンカンに熱くしてもらった日本酒をもらって甲羅酒も堪能した。カニ様のすべてを有難く味わい尽くした。



タラバの内子と外子もあったので、両方もらう。いい感じに味付けがしてあって冷酒がクイクイ進む。日本人で良かったと心底思う瞬間だ。

鹿刺しだの牡蠣だのイクラだの、その他にもあれやこれや注文したのだが、私の記憶には毛ガニ様と内子外子兄弟様と冷酒しか残っていない。酔っぱらい完成だ。あのままクルマにはねられて死んじゃっても成仏できそうなぐらい心が穏やかになった。

「食」という文字は「人」を「良」くすると書くそうだが、まさにウマい食べ物は、精神を格段に浄化させる作用があると思う。


その他、今回の旅で印象に残ったのは、内陸側の養老牛温泉の湯宿「だいいち」で出されたヤマメの刺身。身が肉厚で弾力や甘味ともに申し分なし。この年になると、まったく初めての味に出会うことは少ないのだが、生ヤマメは初体験。かなり満足できた。

ちなみに、ここで書いたような逸品以外の一般的な魚介類は、正直言って東京の名店で食べていたほうがウマいのが現実だろう。

それを言っちゃあ元も子もないのだが、観光客相手に最上級の物は出てこないし、そもそも上等な魚貝は東京相手のほうが高値で捌けるわけだから当然のことではある。

まあ、それでも旅行気分、旅情とともに味わう気持ちの高揚感は捨てがたい。何だかんだ言っても、これからも北の味を求めてフラフラ旅に出たくなるのだろう。

2 件のコメント:

runa さんのコメント...

美味しいものを食べたい時は、
あなた様について行くと間違いなさそうですね♪( ´▽`)

グルメリポートありがとうございました♡

富豪記者 さんのコメント...

runaさま

美味しいものといっても偏ってますから、ご期待には添えないかもしれません。。。。