2014年12月24日水曜日

加山雄三を考える


加山雄三である。おん年77歳である。

スーパー77歳とでも言うべき人だ。「ミスター77歳コンテスト」をやれば優勝しそうである。

いまも元気に散歩ばかりしている。地井武男の後を継いだ散歩番組では、あえて健康を強調するようにやたらと早足で歩いている。見ていて少し心配だ。でも「永遠の若大将」だから仕方がない。

今年は高倉健、菅原文太といった名優が逝ってしまった。昭和を彩った巨星の訃報は日本中にショックを与えたが、彼らより少し年下の加山雄三は元気に散歩を続けている。

これはとても貴重なことだ。この人だって昭和の大スターである。国民皆で大事にしないとなるまい。

裕次郎や健さんのような「別格のレジェンド」と位置づけられていないのが不思議に思えるほど昭和の頃には大活躍した。

80歳を間近にして「若大将」と呼ばれていること自体が人間国宝みたいな話である。

超が付くほどの大御所なのに散歩番組の仕事を気軽に受けちゃうあたりが「若大将」の面白いところでもある。

裕次郎、勝新、健さんなど多くのレジェンドが凄い存在感を見せていた頃、加山雄三はやたらと二枚目でやたらと爽やかでやたらとカッコイイ仕事に明け暮れていた。

映画「若大将シリーズ」である。見たことのない人はレンタルビデオ屋に行くことをおすすめする。

「昭和の匂い」に浸れるシリーズ映画といえば、言わずと知れた寅さんシリーズ、森繁の社長シリーズ、高倉健、菅原文太を中心とした任侠モノが一般的だが、若大将シリーズも代表格と言っていい。



これでもか!というほど若大将は大活躍である。奇想天外というか、ハチャメチャというか、とにかく無敵である。海外旅行が一般的ではなかった時代に若造の分際で世界中で大暴れしていた。

寅さんが最後には必ず失笑を買う役割を担ったのに比べ、若大将はいつでも「わが物顔でワッハハ!」って感じだった。

あの絶対的幸福感が当時の国民に夢を与えたのだろう。でも、その「余りにハッピーな感じ」は一方で「チェッ、調子に乗りやがって」という思いを抱かせる側面もあったはずだ。

この若大将としてのイメージが加山雄三という存在を裕次郎や健さんなど「別格レジェンド」とは異質な存在にしたのだろう。

若大将シリーズが始まったのは昭和30年代後半だ。当時の世相を思えば、「老舗すき焼き屋のお坊ちゃんが大学で気ままに愉快に過ごしている構図」は特別だ。

まだ本格的な高度成長の手前だし、いまよりも格差というか、社会階層のクラス分けは厳然と存在していた時代だ。

大学進学率も男性ですら2割程度だったわけだから、苦学していない大学生はブルジョワそのものだったと言える。

老舗すき焼き屋のセガレである若大将は、名門大学に通う完璧な二枚目であるだけでなく、ギターはプロ級、歌も上手で、スキーも本格派、マリンスポーツも何でもこなしちゃう。おまけに不良性のカケラもない。

これって憧れの対象になる反面、怨嗟の対象にもなりかねないぐらい突き抜けている。

年配の男性の中には加山雄三を嫌う人が結構存在する。ちょっと分かる気がする。
あの時代にあれほどまでに脳天気だったら恨みたい気分になった人も多かったはずだ。

「格好良すぎて何でも万能なイメージ」。誰もがうらやむこの要素が加山雄三の限界?だったのだろう。

女性ファンはそりゃあ素直に「キャー素敵!」って喜んだわけだが、男目線はそうはいかない。

影があったり、謎の部分があったり、切なさを背負っていたり、無頼な匂いがあったり、時に見せるシリアスさに惹かれる。

加山雄三はどうだ。影なんかない、謎めいてもいない、切なさを背負っている雰囲気もない、あくまであのまんまのイメージだ。

渥美清が寅さんのままで、高倉健が健さんのままで貫徹したように加山雄三は80歳になろうと若大将で居続ける。

かなりシンドイだろうなと妙な心配をしたくなる。

実際の加山雄三は想像以上に苦労もしている。経営する会社が倒産して辛酸をなめたり、スキー場で大けがを負ったり、何といっても、父親である名優・上原謙が晩年になってヘンテコな年の差婚に踏み切って騒動になったり、結構大変な経験を重ねている。

私の母親がその昔、加山雄三ファンだったせいで幼稚園児の頃から彼の歌を歌いまくっていた。映画も随分見た。

そんな背景もあって妙に加山雄三に関心を持って生きてきた私である。ビートルズが来日した際にともに食事をした数少ない日本人の一人が加山雄三だというエピソードも知っている。明治の元勲・岩倉具視の血をひいているという話だって知っている。

かといって、ファンではない。散歩の番組を見ても、谷村新司と「サライ」を歌っている姿を見ても、独特な「上から目線」っぽい態度が好きではない。

でも、いまも元気に散歩している加山雄三が気になってしまう。私にとっては「残された昭和の傑物」だ。まだまだ散歩を続けて欲しいと願っている。

それにしても、クリスマスイブに延々と加山雄三を分析している私の心理状態って何なんだろう。

2 件のコメント:

道草人生 さんのコメント...

今まで意識していませんでしたが、加山雄三は確かに小林旭と並ぶ「残された昭和の傑物」ですね。そして松竹の渥美清、東映の高倉健、日活の石原裕次郎、そして大映の雷蔵勝新という傑物たちと並ぶとやっぱり東宝映画のキャラクターを体現した存在だと思います。そしてまた、加山雄三に感じるのは「永遠の弟」という雰囲気でしょうか。昭和ヒトケタ世代の兄に守られたやんちゃな弟という雰囲気が彼の明朗性に繋がっている感じがします。今回のブログを読んであまり意識してみたことがない彼の映画を見たくなってきました。

富豪記者 さんのコメント...

道草人生様

共感いただき有り難うございます!

隠れた傑物ですよねえ。「隠れた」などというと彼の信奉者からは叱られそうですが・・・。

若大将シリーズ、強烈ですよ!
個人的には裕次郎シリーズの当時の映画より面白いと思います。

田中邦衛がまた最高です。