シジミといえば小さな貝。味噌汁に大量投入されているイメージだ。私も生まれてから半世紀以上そんな感覚しかなかった。ところが時々訪ねるお蕎麦屋さんでアサリ、いや、ハマグリ並みにデカい「沖シジミ」なる貝に出会って一気に印象が変わった。
一般的なシジミと違う種類なのかは分からないが、シジミを名乗っている以上はシジミだと思って食べている。
まあ、世の中にはチリアワビなる謎のアワビや北海道産の小ぶりでウマい蝦夷アワビの例もある。もっといえば回転寿司屋の例のエンガワだって普通にイメージされるカレイやヒラメのエンガワではない。
命名される意図や思惑にもよるが一般人である私には知るよしのないストーリーである。きっと多くの魚介類の名前に謎めいた命名理由があるのだろう。
さてさて、沖シジミだ。ハマグリ並みのサイズなのに確かにシジミっぽい風味でウマい。頻繁に食べたくなる。このお蕎麦屋さん「築地・さらしなの里」でしか出会えていないことが残念だ。もっと都内でも普及して欲しい。
初めて食べたのは1年ぐらい前だっただろうか。見慣れない姿だったからたまたま入荷した限定メニューだろうと思っていたのだが、その後、3度、4度と行っても常にメニューに載っている。どうやら常備されているようだ。最近ではこれ目当てで行きたくなる。
しじみ蕎麦がこの店の名物になりつつあるようだが、温かい蕎麦はさほど好みではないので、あくまでツマミの一品として注文している。熱々で供される沖シジミはプリっとした食感に磯の風味が嬉しい。
この汁がまた滋味たっぷりでズズズっとすすると幸福感に包まれる。有難いのがシジミを食べた後の残り汁を温め直して蕎麦を数本入れてきてくれるサービスだ。いつもウットリする。
だったら温かいしじみ蕎麦も注文すべきなのだが、暑い季節になってきちゃったし、結局いつも冷たい蕎麦をズズズっと食べている。十割も二八もさらしなもウマいが、季節の変わり蕎麦もつい注文していつも食べ過ぎてしまう。
先日は茶そばだった。ここウン十年、茶そばをウマいと感じたことはなかったのだが、この店で食べる茶そばは別モノだ。お茶の風味がしっかり感じられる。テキトーな弁当の端っこに鎮座しているようなシャバダバな茶そばと比べるのが失礼な味わいだ。
東京の各地にある蕎麦の名店はていていそれっぽい店の造りとそれっぽい風情もウリになっている。それに対してこの店はパっと見ではカツ丼や天丼も出前する街場の平凡なお蕎麦屋さんみたいな感じだ。
にもかかわらず、かなりレベルの高い蕎麦を出すし、一品料理も豊富、天ぷらもヘタな天ぷら屋よりもマトモだ。蕎麦焼酎の蕎麦湯割りを楽しみながら毎回上機嫌になっている。こういう店こそ「違いの分かるオヤジ」?としては押えておきたい。
蕎麦焼酎の蕎麦湯割りで思い出したのだが、先日訪ねた人形町の鹿児島料理店の錫のジョカで出される前割り芋焼酎が非常に美味しかった。「さつま」という店の名物らしい。6対4であらかじめ水割り状態になった芋焼酎がちょうどいい温度のお燗状態で供される。
オヤジ4人での飲み会だったのだが、なんともホッコリする味に全員が何度もおかわりして酔っぱらった。普段、普通にお湯割りを飲む機会が多いから前割りのウマさを改めて思い知った印象だ。
鶏さしも絶品だったし、熱々ふわふわのさつま揚げもウマかった。オッサンのオアシスと呼ぶのにふさわしいお店だった。実際、この日は2階席で飲んでいたのだが、我々以外も全卓オッサンばかり。見事に男しかいなかった。
季節は暑くなってきたが、歳のせいもあってか「温めた酒」にホッコリする頻度が増えてきた。きっと健康にも良いはずだ。
そう思い込むことこそが健康法である。