2012年3月28日水曜日

春の旅 鯛めし しまなみ海道

春の海 ひねもすのたり のたりかな


都会育ちの私にとっては、子どもの頃に教わった蕪村の俳句の情景が頭に浮かぶことはなかった。ただ、音感の面白さだけで記憶していたように思う。

先週、瀬戸内の旅にふらっと出かけた時、この俳句を思い出した。まさにイメージ通り。ちょっと感激してしまった。単純だ。

広島側の鞆の浦から、しまなみ海道を通って愛媛に入り、道後温泉に浸かる気ままな旅。春の空気とウマい食事を堪能してきた。

今まで瀬戸内海エリアへの旅といえば、備前焼を追いかけて岡山方面ばかりだったのだが、今回は春の鯛をワシワシ食べることを目的にしてみた。

鞆の浦は、坂本龍馬の海援隊ゆかりの地としても知られる。海援隊の船・いろは丸が紀州藩の船と衝突・沈没し、高額な賠償金を得た騒動の発端となった場所だ。

ついでに言えば、不気味な生き物が出てくるポニョという映画の構想が練られた場所としても知られる。

ポニョのルーツということで、宿でDVDをレンタルして見てみたのだが、変に媚びたような気持ち悪い魚がイヤで、20分ぐらいでやめた。

好きな人、スイマセン。

そんなことより、悪食暴食オヤジの私の興味は春の鯛だ。瀬戸内海の白身魚のウマさは万人が認めるところだが、春の鯛はその代表格。旬の鯛を炊き込んだ鯛めしを夢想?しながら旅立った。


鞆の浦で選んだ宿は、「汀亭・遠音近音」。「みぎわてい・おちこち」と読む。変に気取っているだけでサービス面で劣る若者向けのイマドキ宿だったらどうしようと心配していたが、とても良い宿だった。

近くにある大型旅館の系列で、小規模かつ高級しっぽり路線に特化した宿。高級路線といっても、箱根あたりのアホほど高い宿に比べれば価格も手頃で「のたりのたり」と過ごすのに最適。

海っぺりの立地を活かして、ベランダからは瀬戸内海の島々が見渡せる。各室に半露天風呂があって、海を飛ぶトンビやカモメをバックに湯浴みが楽しめる。



部屋にはロータイプのベッドがあって、布団の上げ下げで煩わしい思いをすることもない。夕食、朝食ともに専用の食事処が用意されているので、お籠もり派には居心地がいい。

旬のもの、地のものを活かした食事も高水準。一品一品丁寧に真面目に作られていることが伝わる感じ。



前菜や刺身も脱線しない程度に工夫を凝らしてある。鯛の刺身も皮目を軽く炙ってほんの少しシソの風味をまとわせてあった。

正直、極上の鯛刺しをそのまま食べたい気分だったが、鯛料理にしのぎを削る土地柄のせいだからか、一ひねりしたくなるのだろう。

サービスで出てきたマコガレイの刺身はストレートにぴちぴちの状態。甘味があってウマい。冷酒をグビグビ。



この画像は、鯛の蒸しものと鯛しゃぶ。旬の天然鯛の味の濃さに喜ぶ。都会で出回っている安っぽい無味無臭の鯛とは大違い。冷酒をグビグビ。

思えば、日本人は古くから鯛を高級魚としてリスペクト?してきた。マグロばかりがエバっている最近の魚勢力図を思うと鯛の立場はやや厳しい様子だ。

もちろん、原因はマズい鯛の大量流通によるものだ。香り、味わいともに、まっとうな鯛を口にすると、「元祖・高級魚」であることを改めて痛感する。

鯛しゃぶは、ハマグリの潮汁にほんの10秒弱程度シャブシャブして食べる。ハマグリの風味と塩の味がウマミを凝縮した鯛の切り身にまとわりついて、まさに「正しいニッポンの味覚」と言いたくなる感じだった。

その他、煮物とか、上等な牛肉も出てきたが、ハイライトの鯛めしが抜群だった。


尾頭付きの鯛が丸ごと入った鯛めしも見た目は豪華だが、小骨で難儀しちゃったりする。今回は、切り身をたくさん入れ込み上質な出汁で炊き込む釜飯だったのだが、このスタイルが大正解だと思う。


そのまま食べて良し、ワサビを乗っけて出汁茶漬け用の熱々スープをかけて食べるのも良し。延々と食べ続けられそうな「口福感」であっという間に膨満感。胃薬もグビグビ飲んだ。

翌日は、広島県尾道と愛媛県今治を結ぶ「しまなみ海道」を通って四国入り。瀬戸内海に浮かぶ島々をすべて道路でつないじゃっているわけだから、人間の能力はつくづく凄いと思う。

それにしても「しまなみ海道」。実にそそるネーミングだろう。これが単に「尾今連絡道路」とかの名称だったら、私もきっと旅先に選ばなかったような気がする。「しまなみを眺めながらの海の道」である。どうしたって行きたくなる。

そんな策略にはまって、たかだか60キロの距離なのに4700円も支払うハメになってしまった。おそるべし道路公団って感じだ。

今治から松山に向かい、道後温泉に泊まった。「道後館」という宿を選んだのだが、前日の宿が最高だったので、こちらについて書き出すとアラ探しみたいになってしまう。

言ってみればごくごく普通の宿。露天風呂が付いているタイプの部屋を予約したのだが、この部分は実に良かった。部屋付露天としては、かなり大型サイズ。4人ぐらいで入れそうな感じ。


大浴場の露天風呂が中途半端に屋根に覆われ、サイズ自体も控え目だったから、このタイプの部屋を選んで正解だった。

道後温泉という一大観光地の大型旅館だから、特別な個性もなく、すべてがまあまあといった感じ。結局、まあまあの料理とまあまあの鯛めしを楽しんでホゲホゲ過ごす。

翌日は、砥部焼の里に出かけたり、「銭湯のくせに文化財」である道後温泉本館で熱い湯につかったりしてからレンタカーをぶっ飛ばして松山空港から帰ってきた。

ドライブ中心の旅で、見たい風景があって、食べたい名物があって、しっぽり湯浴みして過ごす。2泊3日でこんなパターンで過ごす日本の旅は悪くない。

すべて個人でのバラ手配だと、良心的なパック旅行でハワイに行くよりも高くつくが、それはそれ。気軽で気ままな解放感のおかげで、身体はもちろん脳の中まで弛緩する時間が過ごせる。

春の香りに気付いて、春の音に耳を向ければ、自分自身も春めいた気分になる。

季節の移り変わりを楽しみ、季節ごとの思い出を毎年重ねられるような旅を続けていきたい。

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