2012年6月20日水曜日

裁判所の鑑定と相続税

今日は久しぶりに小難しい話です。最近ハヤリの相続税問題について書こうと思う。

ここ数年の細かな取扱い改正に続いて、消費税増税法案なんかと一緒に相続税法も大きく改正される予定だ。

いよいよ一部の資産家だけの話だった相続税が、都市部で一戸建てを持ってそこそこ貯金を貯めているような「中流階級」をも直撃するようになる。

こうした時勢もあって、昨今、ウチの会社に持ち込まれる玉石混合?の情報も、一昔前とは趣が変わってきた。

税金の専門新聞を発行している関係で、昔から画期的な節税対策手法や商材の話が持ち込まれることは多い。

主に税テクとでも言おうか、あくまで税金を節減する方法論が多いのだが、最近は、いわゆる「資産フライト」みたいな話が持ち込まれるようになった。

要は「税金対策するよりも、とっととこの国を見捨てて資産を海外に移しましょう」という話だ。

哀しいかな、そんな風潮が富裕層をコンサルするような世界ではもはや常識化している。それが現実だ。

さて今日の本題。増税や資産フライトの話ではない。最近、仕事の関係でいろいろな裁判にタッチしているのだが、そこで気付いた摩訶不思議な理屈について書こうと思う。

相続税の世界で、何かと問題が多いのが中小企業オーナーの相続だ。非上場会社の株式の「時価」をどう評価するかという点が勘どころになる。

従業員数人、業績は赤字続き、日々の資金繰りにも難儀している会社。こんな会社だったら株価なんて屁みたいなもんだと思うのが一般人の感覚だ。額面が50円とか500円だとしても、第三者がそれをその値段で買ってくれるかと言えば現実には難しいだろう。

とはいえ、こんな会社でも所有している会社所有地が都心にあったりすると俄然事情は変わってくる。

非上場の自社株は、相続税の取扱い上では、いわゆる純資産価額をベースに評価額が決まる。すなわち会社が持っている土地の値段がストレートに株式の価値に跳ね返るわけだ。

前述したような吹けば飛ぶような会社でも、一株あたりの評価額が5千円ぐらいになることもある。東証で日々取引されている有名企業の株なんかより遙かに高値になったりする。

売るに売れない土地の価値で株価がボンと跳ね上がり、それを元に相続税がかかってくるわけだから、まさに地獄絵図だろう。

ここまでは前振り。最近、相続と無関係の裁判に関わりながらひょんなことに気付いた。

非上場の中小企業の株式をめぐる裁判って意外に多いようだ。代替わりを繰り返し、まったくその会社と関係なくなった少数株主が、その株式を手放そうと考えることは多い。他にも昔出資していた会社が、取引や付き合いがなくなり、保有株を手放したくなるようなケースも同じだ。

誰に買ってもらうかという問題を始め、そもそも適正な時価をどうするかで話がつかないケースが大半だ。

売りたいほうは高く評価したいし、買い戻す側は低く評価したい。非上場で流通していないからモメやすい。裁判所に適正な時価を判断してもらおうという話になる。

裁判所だって株価算定のプロではない。結局、裁判所が選任した第三者鑑定によって株価を決める流れになる。

基本的には公認会計士が第三者鑑定を担当する。ここからは会計士の裁量も大きく関わる。高く売りたい側の理屈、低く抑えたい側の理屈を吸い上げて判断するわけだ。

たして2で割るような結論になりそうなものだが、裁判所の決定に関わる作業だ。いやでも「堅め」の線に落ち着く傾向がある。

所有土地の不動産評価も堅実な水準になるし、業績の悪さも過敏と言えるほど影響する。やはり人間が行う作業だから、「将来きっとこんなに儲かるはず」という希望的観測より「業績回復はもうダメかもしれない」という「堅い話」のほうに引っ張られる。

実際の株式価額算定は、土地の時価などをベースにその会社の純資産価格を求め、それを元にプラス要因、マイナス要因を足し引きしていく。鑑定する人間がマイナス要因を斟酌する気持ちが強くなれば、当然株価は低めに誘導される。

実際に聞いた話だが、まだ取引継続中の得意先から支払ってもらえていない未収金まで貸倒れ損失として純資産価額から差し引いてもらったケースもあるらしい。税務の概念からは想像できない大甘な判断だろう。

第三者鑑定での結果は、裁判所が下す結論に直結する。多くの場合、そのまま株価が決定するわけだが、上記の経緯で低めに決まった株価は、何だかんだ言っても「裁判所様がお決めになった価格」である。

さて、何が言いたいかというと、相続の実務において、一般的な自社株評価で導き出される金額より、上記したような経緯で裁判所が決めた株価のほうが遙かに低くなるのなら、相続や贈与の際に裁判所で決めた価格を使って申告しちゃえば良いという話だ。

評価方法の経緯はともかく、天下の裁判所の決定に行政機関の出先である税務署が文句を言えるはずもない。

ある意味、高度かつ合法的かつ安全な節税作戦になり得る話だろう。

もちろん、理論上はそうでも、現実には裁判を提起する手間、鑑定費用等々、話はそう簡単ではない。それでも、大幅な税金の圧縮が可能なら、大いに検討の余地はありそうだ。

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