私にとってフランス料理といえばエスカルゴのイメージが強い。あまりフランス料理は好きではないが、エスカルゴはついつい食べたくなる。
もう50年近く前のことだが、欧州旅行に行った祖父が乾物状態のエスカルゴをお土産に持ってきたのが私とエスカルゴとの出会いだ。正直、気持ち悪いの一言だった。
デンデン虫の殻が大量にパッケージされていたわけだからブキミ以外の何物でもなかった。ヨーロッパ人なら食用という意識が優先するのだろうが、半世紀近く前の日本人の少年から見れば単なるデンデン虫だ。もっと言えば殻付きのナメクジである。
ナメクジに塩をふったら縮むぞ、みたいなイタズラをしていた身としてはエスカルゴも調理したら溶けて消えちゃうんじゃないかと思ったほどである。
でもバターとガーリック中心に味付けされたヤツは案外ウマかったので知らず知らずに好物になっていった。子供の頃の純粋さを失っていくことに比例してエスカルゴを美味しく感じ始めていったわけだ。
一説によるとエスカルゴは人類が最初に食べたものの一つにあげられるらしい。古代ローマ時代には既に養殖が始まっていたそうだ。なんとも歴史のロマンを感じる一品だ。
本場・フランスでも食べたが、スペインでも上の画像のようにドッサリ煮込んだエスカルゴが郷土料理屋などで出てくる。ワインのつまみには最適だ。ナメクジのイメージは酔っ払ってしまえば忘れる。
先日、10年ぶりぐらいに帝国ホテルの「ラ・ブラスリー」に出かけた。この店のウリになっている名物料理が並んだコース料理とは別に当然のようにエスカルゴも注文した。
普段あまりワインは飲まないのだが、エスカルゴと白ワインの組み合わせは最強だ。まあガーリックとバターの風味がワインにバッチリなわけで、デンデン虫そのものの味は正直よく分かっていない。
知りたいような知らずにいた方が良いようなそんな物体がエスカルゴである。やはりガーリックとバターの味をムホムホ喜んでいれば幸せだ。その証拠にデンデン虫の代わりにツブ貝などを使ったエスカルゴ風というメニューもあちこちで食べたが、正直そんなに大きな違いは感じなかった。
なんだか誉めているのかクサしているのか分からない話になってしまった。
さてさて、久しぶりに訪れた「ラ・ブラスリー」である。たまたまだったのかも知れないが、お客さんの数がまばらで以前感じたような活気が無くて少し残念だった。
それより何より私が楽しみにしていた「ピラフ」がメニューから消えていたのがショックだった。昔はこの店に来ればどんなに満腹になろうともピラフを注文した。フレンチである以上、ピラフ自体が邪道な存在とみなされたのだろうか。残念無念だった。
この店の名物であるシャリアピンステーキと海老と舌平目のグラタンエリザベス風とローストビーフである。フレンチが苦手な私でもこれらの王道メニューを味わっていれば幸せな気分になる。
歯が痛かったシャリアピンさんに出した柔らかステーキであり、エリザベス女王来日時に提供されたグラタンである。そんな物語性も古くからあるお店の面白さだろう。
帝国ホテルといえば、日本の西洋料理の曙みたいな存在だ。この店の料理もどことなく日本人に馴染みやすい味わいである。私のような年代の人間にとっては昭和の頃に覚えた西洋料理の味だ。
加齢と共に生活全般において保守的な傾向が強まっているのだが、こういう「昔ながら」が一番落ち着くししっくり来るようになった。洋モノが食べたい気分になったらまた来ようと思った。
ちなみにこれが10年以上前に食べたこの店のシーフードピラフ。これに特製ソースをかけながら味わうのが最高だった。強く強く復活を願う。
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