2009年6月25日木曜日

銀座 呉竹

アマノジャクの私にとって流行の店や行列が出来る店にいそいそ出かけるのは抵抗がある。本音では行きたくても、心の中で指をくわえてやせ我慢することもある。

実に無意味だと思う。でも仕方ない。性格はなかなか変わらない。どうしても裏路地の店とか、メディアに登場しない店とかに惹かれる。

銀座6丁目、三原通りのお寿司屋さんに飛び込んだのも何となく漂う隠れ家感に吸い込まれてのこと。

店の名前は「呉竹」。雑居ビルの地下、カウンター8席程度にさほど大きくない座敷があるお店だ。

夜の銀座を地図的な視線で見ると北側の数寄屋通りから下の方、すなわち南側に向かって外堀通りと中央通りまでの間が賑やかなエリア。中央通りより南側は途端に寂しくなる。

先日覗いてみた「呉竹」は、中央通りを越えて、寂しくなったあたりにひっそりと位置する。

函館に本店があるお寿司屋さんだそうだ。函館に数え切れないぐらい行っている私だが、こちらの本店は知らなかった。とはいえ、銀座で“函館系”のお寿司屋さんがあるのなら突撃しないわけにはいかない。

結論から言うと「珍味系居酒屋!」。悪い意味ではない。このひと言に尽きると思う。“銀座で寿司”という独特の感覚で訪ねると拍子抜けする。

お店の作りも雰囲気もお店の人の様子もいたってフツー。悪い意味ではなく、地方都市の街場のお寿司屋さんとか住宅街のお寿司屋さんといった飾らない感じ。

勝負デートとか、かしこまった席に利用する雰囲気とはちょっと違う。気取らずノンビリ旨い肴をつまんで呑むには悪くない。

実際に私が出されたのも酒呑みには堪えられないものばかり。

突出しに松前漬け風の一品とイカの塩辛。そしてもう一品、大きめな突出しとしてホッケの煮物が出てきた。さすが函館流だ。

刺身はホッケとソイ。いずれも昆布締めされて酒肴にピッタリ。水ダコも登場。こちらは今ひとつ。

塩辛風のタコの卵が登場。珍味太郎としては、この手の変なモノが出てくると俄然幸せになる。

私の喜びを察したのだろうか、大将がメフンを出してくれた。鮭の血合いの塩辛みたいなものだ。塩分取りすぎだ。でもウマい。

イカソーメンが出てきた。ポイントはタレ。イカのワタと醤油をあえたキモ醤油的に味わうと何ともハッピーハッピー。

続いて“いずし風”の魚が2点やってきた。北海道の正月料理に欠かせない“いずし”は、確か魚を乳酸発酵させるなれずしのこと。これまた酒の友にピッタリ。すっかり函館旅行気分だ。

大将とアレコレ話をしたのだが、よくよく聞くと函館の本店から送り込まれた人ではなく、本店は手下に任せて、オーナー大将自ら昨年から銀座に進出したらしい。単身赴任だそうだ。大変だろうが、ちょっと羨ましい。

この日、ビックリするほどウマかったのが蝦夷アワビの子ども。アワビに対する考え方がひっくり返るほど美味しかった。

口を濁していたから、禁漁品なのだろうか。貝から剥いたままそのまま食べた。醤油も塩もナシ。丸ごとパクッと食べた。

シンコとか新イカを食べた時と同じような衝撃だ。赤ちゃんを食べちゃった罪悪感と赤ちゃんならではの柔らかく無垢な食感が絶妙。一応、キモもまとわりついていたがエグみはなく、ただただ潮の香り。

生のアワビはコリコリと固いだけのイメージがあるが、赤ちゃんの場合、鮮度抜群の生でもまったく固くない。バンザイ。

ここまで書いてきた内容から見ても、お寿司屋さんというより海鮮郷土料理屋というジャンルで捉えたくなる。

冒頭で「居酒屋的」と表現してしまったが、正しくない。居酒屋にこんな気の効いたメニューは揃わないだろう。正しく表現するなら郷土料理屋が的確だろうか。

そろそろ握りを食べようかと思案中に北寄貝の貝柱が串焼になって登場。素材がホンモノだから素直に旨い。

クジラも出てきた。ベーコンとさえずりだ。ベーコンだけでなく、さえずりを出してくれるあたりが堪らない。焼酎を呑んでいたタイミングとバッチグーだ。

いやはや、上等なつまみを「これでもかっ!」とばかりに堪能した。ここが寿司屋であることを心の底から忘れていた。

隣り合わせた初老のオヤジ二人組と北海道話で盛り上がった。酔っぱらいオヤジの相手は面倒だと思っていたのだが、気付いたらコッチの方が酔っぱらいモード全開だった気がする。反省。

店の空気もそんな感じで気軽。入る前は身構えたくなるような気配だが、入ってしまえば普段着感覚で過ごせそうだ。

結局、握りは3貫だけしか食べなかった。
とはいえ、この場面でも“北海道全開”の3貫だ。珍しいオニ海老、ウニ、そしてマスコだ。

オニ海老はトロリと甘く、ウニはバフンウニの軍艦。ムラサキウニも小皿にちょこっとサービスで出してくれた。マスコは言うまでもなくドロリと私を悩殺。

最後に味噌汁も出てきて、さてさて結構なお値段かと思いきや、正直激安でした。

この店の路線、好きな人にはクセになりそうな感じ。個人的には職場が近くじゃなくて良かったと心底思った。通い詰めたら早く死んじゃいそうだ。

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