2010年1月21日木曜日

公私混同

オーナー経営者の感覚は、それ以外の人にはなかなか理解されにくい。会社のお金にしろ、個人的なお金にしろ消費活動には一種独特の感性がつきもの。

先日、独立したての経営者と色々話をする機会があった。まさにオーナー初心者なので、「経費」の概念がよく分かっていない。

「会社のカネで車なんか買ってもいいんですか?」、「会社のカネで人間ドックやってもいいんですか?」。たとえて言うならそんな感じ。

勤め人感覚だと仕方ないのだろうが、車に限らず、家だって会社で買っても何も問題ない。社宅に関する税務上の規定がアレコレ用意されている以上、逆に安心だ。

経営判断として、そういう投資行動が可能ならどんどん実行すればいい。

オーナー企業では、経営者の「公私混同」がとかく問題にされがちだ。創業オーナー社長などは、もともと会社も自分も一心同体。感覚的に区別をつけられないのも無理はない。

オーナー経営者ではないジャンルの人から見れば、公私混同は単純に「悪」と映るのだろうが、そんな簡単な話ではない。

税金の専門紙、それもオーナー経営者側の目線を意識して編集しているわが社の紙面で、その昔、画期的な特集を組んだことがあった。ズバリ「公私混同こそ中小企業のパワー」。

税務署からすれば、目を剥きそうなタイトルだが、かなりの数の賛同の声が寄せられた。個人保証がつきものであり、まさに命というリスクまで背負わされているオーナー経営者の実像だ。

西欧諸国と違って、儲かっていても慣習的に破格の役員報酬を取ることが少なかった日本の経営者は、いわゆるフリンジベネフィットと呼ばれる「会社経費での経済的利益」を厚くしていった経緯がある。

新入社員と比べてたかだか5倍程度の年収で、すべてのリスクを負っている経営者は珍しくない。考えてみれば変な話ではある。

近頃やたらと勤め人保護の思想が手厚くなってきた労働関係法規にしても、経営者はカヤの外だし、いざというときのリスクの大きさを考えると従業員と年収を比較すること自体がナンセンスだろう。

必然的にゴルフとか車は社用が前提になり、福利厚生施設としての別荘だとか社長交際費だとかが充実してくる。

当然、「経済的利益」に敏感な課税当局は、一連の社長関連費用に睨みをきかす。結果、税務上の細かい取扱いがアレコレ誕生することになった。

逆にいえば、税務上の規定等々に違反しない範囲であれば、公私混同的行為は当然の行為とみなされているという見方も出来る。

少なくとも、税務署側に抗弁できる客観的な論拠なり資料などの証拠があれば、公私混同と指摘されそうな経費処理であってもビクビクする必要はない。堂々と経費処理すれば良い。

今度の税制改正でもスッタモンダしていた「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」という制度がある。内容は省くが、この文言だけでも差別的だ。言葉の字面を見るだけで、いかに課税サイドがオーナー経営者を色メガネで見ているかが分かる。

色メガネ規制がキッチリあるのならそれはそれで逆に分かりやすい。規制に抵触しない範囲の行為やそれ以外のことなら堂々としていればいいわけだ。

公私混同的経費については、わが社の新聞でも注意点とかポイントを特集することが多い。あくまで経営者的感覚の対極にいる税務職員を納得させるためにはそれなりの準備は大事。逆にポイントさえ抑えれば無用な紛争も避けられるわけだ。

経営者向けの雑誌とか新聞は数多い。もっともらしい企画が満載だが、会社の財布と個人の財布という「二つの財布」の使い分けとか勘どころを掘り下げた企画を見ることは無い。担当編集者の目線が経営者的でない以上、当然そういう角度の媒体を作ることは出来ないわけだ。

富裕層向けのメディアも同様。高級嗜好品の消費行動を煽るような企画が満載だが、その根源である経営者の「二つの財布」までは発想が及んでいない。

5千万円の高級車を前にして、オーナー経営者が考えることは、「今期の減価償却はいくらになるのか、それによって節税効果がどのくらいなのか」。意外にそんな観点だけで決済するか否かを決めている。

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